- 女
- ねえ。ねえってば
- 男
- なに?
- 女
- 触らないの?
- 男
- うん
- 女
- 触ってくれないの?
- 男
- うん
- 女
- 意地悪
- 男
- どうして?
- 女
- わかってるくせに
- 男
- 意地悪なんだよな、僕は
- 女
- こんなに触ってほしいって思ってるのに
- 男
- 仕方がないから触ってあげようか
- 女
- 触ってくれるの?
- 男
- 仕方がないからね
- 女
- 嬉しい
- 男
- そんなに触ってほしかったんだね
- 女
- だって
- 男
- だって、なに?
- 女
- だって、全然触ってくれなくなった
- 男
- そうだね
- 女
- たくさん触ってくれてたのに
- 男
- そうだね
- 女
- ずっと触ってほしいって思ってて、やっと触ってくれるんだもん。嬉しいよ
- 男
- そんなに嬉しいのか
- 女
- どうしてずっと触ってくれなかったの?
- 男
- どうしてそんなこと訊くの?
- 女
- だって、それは、だって、不安だから
- 男
- 不安だから訊くのか? 不安だから、そうやって僕のこと詮索するのか?
- 女
- 詮索なんて、そんな大袈裟な言葉使わないで
- 男
- やっぱり触ってあげない
- 女
- どうして?
- 男
- やっぱり触ってあげない
- 女
- 意地悪
- 男
- 意地悪かな? 僕は
- 女
- ほんと意地悪だと思う
- 男
- 君が今まで付き合ってきた人の中で、僕は何番目に意地悪かな?
- 女
- 一番だよ。一番、意地悪
- 男
- そっか
- 女
- 私はこんなに、こんなに触れられたいのに、少しも触ってくれない
- 男
- 少しも触ってなんてあげないんだ、僕は。意地悪だからね
- 女
- ねえ、私のこと嫌いなの? もう嫌いになったの? 最初から好きじゃなかったの?
- 男
- 好きだよ。ずっと、今でも、初めて会ったときから、好きだよ
- 女
- 好きなものに、触れたくならない? 好きじゃないから触りたくならない?
- 男
- 触りたいさ。でも、触ったら、喜ぶから、駄目なんだ
- 女
- 駄目なの?
- 男
- 喜ぶから駄目なんだ
- 女
- 私に触ってほしい。私を駄目にしてほしい
- 男
- 触れてあげよう。好きだから。駄目にしてあげよう。どうしようもなくしてあげよう。いつかね。
いつかだよ。駄目になるくらい触れてあげよう
- 女
- どうして今じゃ駄目なの?
- 男
- まだ本当には僕に触られたいと思ってると思えない
- 女
- そんなことないのに
- 男
- そんなことないかもしれないね
- 女
- 約束よ。そのときは意地悪しないでね。ずっと私のこと好きなままでいてね。
一緒に駄目になろうね
- ――終わり。