- JR大阪駅一階のグランフロント前。金曜の夜7時半。
無難な小花柄のワンピースを着た景子に、紺色のスーツに妙なネクタイをした
直之がおずおずと近づいてくる。
- 直之
- 景子さん・・・。
- 景子
- (直之に気が付いて)あ。こんばんは。
- 直之
- こんばんは・・・。
- 景子
- アハッ。そのスーツ、素敵ですねぇ。
- 直之
- そうですか?
- 景子
- そうですよぉ。アハッ。
- 沈黙が訪れる。
- 景子
- あの・・・どこ行きます?
- 直之
- 合わせます。
- 景子
- 私が合わせます。
- 直之
- ・・・何が、食べたいですか?
- 景子
- おいしいもの。
- 直之
- ああ・・・。(小声)漠然としやがって・・・!
- 景子
- えっ?
- 直之
- なんでもないです。なんでもいいです。
- 景子
- ダメ、男の人がそんなこと言ったら。結婚相談所の人が怒っちゃいますよぉ?
どこ行きます?
- 直之
- うう・・・。
- 景子
- 決めてください。
- 直之
- どこがいいのか・・・
- 景子
- 今日こそ決めてください。私たち、もう10回も会ってるのに、
一回も待ち合わせ場所から動いたことないんですよ?
- 直之
- ああ・・・!
- 景子
- 見てください、私の目。もう泣く寸前ですよぉ?
- 直之
- どこがいい・・・どこが一番・・・!うああああ!(逃げる)
- 景子
- 直之さん待って!
- 直之
- 放せえ!
- 景子
- これじゃ五回目のデートと同じじゃないですか!
- 直之
- ああ。
- 景子
- とりあえずどこか行きましょうよぉ!
- 直之
- だって決められないんだ!
- 景子
- 大丈夫!直之さんなら決められる!
- 直之
- 無理だ!わからないんだ!安くてうまくてポイントがたまってクーポンが使え、
かつ女が満足する、この世で一番いい店はどこにあるんだ!
- 景子
- 私は、どこだっていい!
- 直之
- 景子さん!
- 景子
- 一緒にいられれば、それで・・・。
- 直之
- そこまで(僕のことを)・・・。わかりました。じゃあ、どの店がいいですか?
- 景子
- 決めてください。
- 直之、柱に腕を押し当てる。
- 直之
- あなたとは合わない・・・。
- 景子
- わかってはいるんです・・・。
- 直之
- 別れましょう。
- 景子
- 別に付き合ってませんから。
- 直之
- この会話、いつかもしましたね。
- 景子
- 七回目のデートです。
- 直之
- ああそうか。
- 景子
- でも、直之さん、私以外にお相手います?
- 直之
- 八回目のデートでも聞かれましたね。いません。
今まで百人ほど紹介してもらいましたが、一回目のデートで全員にフラれました。
- 景子
- 私も同じです。だいたい二回目でフラれます。
- 直之
- 僕ら、似た者同士ですね。
- 景子
- 前回のデートで確認しあいましたよね。・・・私、疲れちゃった。
- 直之
- 景子さん。
- 景子
- 早く決着、つけてください・・・。
- 直之
- ・・・決められない。だって、あそこを歩いている女性の方が
あなたより素晴らしいかもしれないじゃないですか。
- 景子
- 本人の前でよく言いますよね。
- 直之
- 僕はこの世で一番いい人を選びたいだけなんです。
たしかにあの時一緒に見た海は美しかったですが・・・。
- 景子
- それは私じゃありません。
- 直之
- そうでしたっけ?
- 景子
- はい。
- 直之
- そうか、こいつじゃなかったか・・・。
- 景子
- こいつって言わないでください、本人の前で。
ねえ、直之さん、私しかいないでしょ?あなたみたいな人には、私しか。
- 直之
- わかってる!!
- 景子
- 私、断りませんから・・・。
- 直之
- うう、ああああ。(えづいて)すいません、ちょっとトイレに・・・!
- 景子
- ついていきます!
- 直之
- それはやめて!
- 終わり。