夜。ここは広大なサービスエリア。
まずい。どれだったかなぁ。全然見分けがつかねぇ。
(女を見つけて)あぁ、良かった。良かった良かった。
へ?
ごめんなさい。仙台行きのバスに乗ってましたよね?
そうですけど。
いやぁ、僕も乗っていたんですよ。
あぁ、そうでしたか!
よかった、よかった!
探しにきてくださったんですか?
探しにというか、綺麗な人だなと覚えていたので。
え。
あぁ、いや、そんなことはどうでも。戻りましょう。
はい。
どこでしたっけ?
へ?
実は僕、自分のバスを見失っちゃって。いやほんと、あなたがいて良かった。
あー、そっか。
戻りましょうか。
いや、実は、あたしも自分のバスがわからなくなってしまっていて。
おっと。
そうなんですよ。
なるほど。するとこれはあれですね。詰んだってやつですね。
はい。
ひとつずつ近づいて見ていきますか。
あ、でも、ここからなら全体が見えるから、もしかしたら手を振ってくれるかも。
ああ。
ほかのバスに近づいて、知らないうちに出発されたら困るし。
たしかに。もう発車時刻は過ぎちゃってますもんね。
あたし、あのバスが怪しいと思うんですよ。
赤いラインの入った?
はい。あそこから、運転手さんが出てこないかなって。
運転手さんの顔なんて覚えてるんですか?
えぇ、すごくカッコイイ人だなと思ったので。
あぁ。
あ、いや、そんなことはどうでも。
あれ? でもあのバス、動き出しますよ?
あ、ほんとだ。え、あれじゃねぇのかな。
バスが一台、去っていく。
あれじゃないですよね?
いや、あれかなって思ったんですけど。
あれだったらやばくないですか?
あれじゃなかったかもしれないですね。
でもあれだったらどうしましょう。
しつこい。
……あっちにも、似たような模様のバスがありますよ。
あ、ほんとだ。
でも、あんな模様でしたっけ?
正直、あまり自信はありません。
僕も、全然覚えてないんです。それこそ、あなたの顔くらいしか。
あたしも、運転手さんの顔しかわかんないから。
夜、広大なサービスエリアで、
深夜バスを見失った二人の男女がお互いに記憶していたのは、
お互いの顔だけだった……、なら、ロマンティックですけどね。
なんですか?
なんでもありません。あっ、ちょっ、あれも動き出しそうじゃないですか?
ほんとだ! あれだったらさすがにヤバイ!
走りましょう!
おーい、そのバスちょっと一旦ストップ
(と、言おうとして突如やめて)(咳払い)(可愛らしい声に調節して)
ごめんなさーい、運転手さん、ちょっと待ってー。
どうやらこのバスで正解のようだ。
すみませーん!
END