- マジックショーの帰り道の男女。
女がテクテクと歩いてくる。その後を男が追いかけて・・。
- 男
- 待って待って! ちょっと待って!
- 女
- 何? なんで怒ってるかわからんの?
- 男
- ・・そんな怒ること?
- 女
- 怒るに決まってるやんか! うちに、マジックショーのチケット代出してもろといて、
タネ全部わかって楽しめんかったって、何それ? おかしない?
そういうのさ、自分でお金出してから文句言うべきちゃうん?
- 男
- (突然、大声で)俺は、そんなん言われるためにマジックショー観にきたんちゃう!!
- 女
- ・・ちょ、大きい声出さんといて、恥ずかしい。
- 男
- 俺今、働けへんっていうてるやんか!
その間、お前が、生活の面倒見てくれるっていうたから、
俺、頑張って生きようとしてるのに・・。もうちょっと、そういうの、わかってよ!
- 女
- え? うちあんたに30万貸してるんですけど・・これ以上のサポートがある?
- 男
- ない。
- 女
- せやな。
- 男
- ごめんなさい。
- 女
- 応援したってるやん。
- 男
- ・・。
- 女
- あんた元気なるかなって思って、マジックショーのチケット代出してやったやん。
- 男
- ・・。
- 女
- 行く前もファミチキも食べたいっていうし、買ってやったやん。
- 男
- 美味しかった。
- 女
- それでうちにこれ以上、何をわかってほしいの?
- 男
- 俺を怒ったり、追い詰めたりせんといてほしい。
- 女
- (呆れつつ)怒ったり、追い詰めたりせんかったらええねんな。
- 男
- ちゃうんねん。俺がさ、怒られたり追い詰められて、変わればええけど、変わらんやん。
だって変わろうとしてないもん。変わろうとしてない人間、どんだけ追い詰めても
お互いしんどいだけやん。
- 女
- ・・・ごめん、やっぱ、これ以上あんたといるの無理かもしれん。
- 男
- ・・マジックショー、楽しかった。
- 女
- いや、もう無理やし、なんか。
- 男
- ほんまに楽しかった。マジックのタネひとつもわからんかった。
- 女
- 手、離して。痛いし。
- 男
- ・・。
- 女
- 離してって。
- 男
- お金も、返すし。
- 女
- いいよ。あんたのおかんにゆうし。
- 男
- おかん関係ないやん。
- 女
- あんたトラウマで働けへんのやろ?
去年、バイトで発注ミスって、怒られて、傷ついてるんやろ。
- 男
- ・・・。
- 女
- そんな人から取り立てるのかわいそうやん。
- 男
- でも、考えて。俺のおかんがかわいそうじゃない?
- 女
- ・・せやな。でも、息子が、したことやしなあ。
- 男
- ちゃんと自分で返す。
- 女
- 働くの?
- 男
- ・・探す。
- 女
- 探すん?
- 男
- うん。録音しといて。仕事探す。
- 女
- 別に録音せんけどさ。
- 男
- 働きます。
- 女
- 約束な。
- 男
- だから無理とか言わんといて。
- 女
- うちのこと幸せにしてくれるんやろ?
- 男
- する。
- 女
- ちょ、それは録音するわ。・・(スマホの録音開始して)ハイ、もういっかゆうて。
- 男
- 仕事、探します。
- 女
- ・・で、うちのことは?
- 男
- 幸せにします。
- 女
- もし破ったらどうしますか?
- 男
- そんなあかんかったときのことなんか考えられへんよ。
逆にあかんかったときのこと考えて、人を幸せにできる? 俺は出来ひんと思う。
- 女
- ・・。
- 男
- だから俺は、お前を幸せにする。
- 女
- ・・ちゃんと働いてくれたらそれでいいよ。
- 男
- ・・マジックショー、楽しかった。
- 女
- それでエエねん。
- 男
- うん。
- 女
- またいこな。
- 男
- うん。ありがとう。
-
終わり