とりあえず生と、冷ややっこ。あと、ホタルイカの沖漬けと、どうしようかな。
なんかある? あ、天ぷら盛り合わせにしよう。と、ポテトサラダ。
あと、ウーロン茶。以上で。まりこ、カバンそっち置いていい?
なんかさー。
うん?
「なんか食べたいものある?」とか聞かないよね。
え? 聞いてなかった?
聞いてなかったよ。
うそ、聞いたと思うけど。
たぶんじゃあさ、その聞くっていうのがさ、無意識の作業になってるんだろうね。
なになに? どうしたの?
心から、キミは何が食べたい?って尋ねる、そういう気持ちじゃなくて、
とりあえず、無意識のうちに経るプロセスでしかなくなってるんだろうね。
いや……、聞いたよ? 俺。たぶん。
たぶんでしょ?
たぶんだけど、ごめんごめん。そんなに怒んないでよ。
ウーロン茶とは限らないから。あたし。
あ、違うのがよかった?
ウーロン茶でいいけど。
じゃあ、いつも通り……。
でもわかんないじゃん! 今日のあたしはトマトジュースかもしれないし、
ジンジャーエールかもしれないじゃん!
ごめんごめん。つい、いつもの習慣で。
習慣にしないでほしいっていう話をしてるのね。
うん。
あたしを、あなたの人生の習慣にしないでほしい。
え、そんな大げさな話?
なんか、どういうふうに考えてる?
なにが。
将来。
……、結婚とかそういう話?
だとしたら?
いやでも、結婚とかの話とかは、ちゃんと、あれでしょ。
二人でしなきゃいけないでしょ。機会を設けて。
今日、今この瞬間とかは、その「機会」じゃないんだ。
今日はだって、別に。
「今日はだって別に」の日なんか、あたしにはもう無いんだからね?
……いや。
「別にだっての今日」のつもりで、あたしあなたに会ってない。
そっか。
あたしが何歳か知ってる?
知ってるよ。
何歳?
そんな、クイズみたいなことやめようよ。
え、わかんないの?
わかんないっていうか、そんな、クイズみたいなことしてもしょうがないでしょ。
別にクイズじゃないよ。質問だよ。何歳?
三十二。三。まあその。
まあいいんだけどさ。
そういうの、覚えてくれるような人じゃないっていうのは知ってるから。
あと三時間で三十三だろ。それは覚えてるよ。ちゃんとプレゼントも用意してる。
え。
苦手なんだよ。いつもと違うのが。
できるだけいつも通り過ごして、帰り道に渡すつもりだから。
ドキドキするんだよ、こういうの。爆弾抱えてるみたいでヒヤヒヤするんだ。
だから俺は、まりこが、俺のいつもになってほしいって思ってる。
それってプロポーズ?
わからないけど、俺は、いつも通りの日を、いつも通り過ごしたいんだよ。
なにそれ。
終わり。