ある秋の昼下がり。チリン、チリンと呼び鈴が鳴る。
ノックの音。
テオ
プリーズカミン。
ドアが開く。
エミリー
お呼びですか、ぼっちゃん。
テオ
エミリー。はちみつを入れたアールグレイを持ってきてくれないか。
エミリー
ぼっちゃん、お悩みですね。
テオ
なぜそれを。
エミリー
ぼっちゃんのことならなんでも。
テオ
やれやれ。お見通しだな。
エミリー
いったいどうなさいました?
テオ
実は…探偵になりたいんだ。
エミリー
探偵?
テオ
シャーロック・ホームズにひどく憧れてね。
エミリー
よした方がいいですよ?
テオ
なぜ?
エミリー
だって、探偵の仕事なんて、浮気調査と素行調査くらいしかないですよ?
テオ
えっ。そうなの?
エミリー
現実はそんなもんです。
テオ
そんな…。
エミリー
さあ、探偵はやめて、公務員を目指しましょう。
テオ
いやだよ。
エミリー
ぼっちゃん。
テオ
僕は事件を解決したいんだ!
エミリー
やれやれ。お任せください。(部屋を出ていく)
テオ
えっ?どこへいくの?・・・エミリー?
エミリー、再び勢いよく入ってくる。
エミリー
ぼっちゃん、大変です!旦那様がお部屋で殺されています!
テオ
ええっ!パパが?パパー!(出ていこうとする)
エミリー
違う違う。
エミリー
お芝居ですよ。
テオ
ええ?
エミリー
ちょっと事件をやってみるんです。
テオ
・・・ああ・・・なるほど!!なんてこった!パパが!
エミリー
警察に電話します!・・・ああ、電話線が切られている!!
テオ
なんだって!
エミリー
直接警察に行ってきます!
・・・大変です!街へ続く一本しかない道が…がけ崩れで通行禁止に!
テオ
我々はこの館に閉じ込められたわけか・・・。
エミリー、この館にいる人間を全員ここへ集めてくれ。
エミリー
わかりました。
・・・あの、ぼっちゃん。今、私とぼっちゃん二人しかいないんですが。
テオ
パパたちは?
エミリー
旦那様と奥様はお出かけですし、料理人は暇をとっておりますので。
テオ
そうなのか。
エミリー
はい。
テオ
この館には今二人しかいない・・・。ならば・・・犯人はお前だ!
エミリー
そうなりますね。
テオ
つまらない!
エミリー
二人では無理がありますね。
テオ
じゃあさ、犯人は外部からやってきたことにして、
パパの部屋を調べてみよう!
エミリー
アイアイサー!
バタバタと走る音。テオ、パパの部屋を開ける。
テオ
よし、まず引き出しを探してみよう。
何か犯人の手掛かりがあるかもしれない!
エミリー
そうですね。
テオ
(引き出しを開けて)おお、たくさんの手紙が。・・・なんでこんなに?
エミリー
全部、ミセスグリーンというかたからですね。
テオ
えっ。
エミリー
「先日の熱い夜のことは忘れません。今度はいつ会えるのですか?」
テオ
ええっ?
エミリー
どうやら浮気のようですね。
テオ
そんな。・・・見なかったことにしよう。
エミリー
ですね。
テオ
それよりも、あれだよ、まず犯人の靴跡が残ってないか探してみよう。
エミリー
探偵っぽい!
テオ
ん?ベッドの下に、何かある!!
・・・し、下着じゃないか!ものすごくたくさんの下着が!!
エミリー
そういえば最近ここらで下着ドロが出るという噂が・・・。
テオ
ウソお!!
エミリー
図らずも旦那様の浮気調査と素行調査をしてしまいましたね。
テオ
なんてこった・・・。あっ、ママ!!
エミリー
奥様!!いつからそこに?どこへ行かれます!!
テオ
パパ!逃げて!!
エミリー
やれやれ。殺人事件に発展しなければいいけど!
終わり。