- ゆきが降り出した町を恋人たちが歩く。
なんてことない恋人ふたりである。
デートの帰りか、仕事終わりの待ち合わせ。帰り道
- 女
- ふー。さむい! 雪ふってるよー!
- 男
- ほい。手。
- 女
- 彼の手はいつも暖かい。春も夏も秋も、冬も。いつでも暖かい。
- 男
- 冬の俺は最高だろ。
- 女
- こういうの、太陽の手っていうんだよ。美味しいパンが焼けるの。
- 男
- へえ。焼いたことないけど、焼いてみるか。パン。
- 女は笑う。
- 女
- あー。あったかいな。右手だけ、温泉につかってるみたい。
- 男
- 冬の俺は最高なんだよ。
- 女
- ふふ。クリスマスどうしよう。
- 男
- 今年は、・・・気合を入れようかと、思っている。
- 女
- ほお。三度目のクリスマスですからね。じゃあ、ひとつがんばりますか。
- 男
- いや。きみは、いい。何も気合入れなくていい。
- 女
- どうして。私にも入れさせてよ気合。
- 男
- いやその。
- 女
- リストアップしちゃうよ。レストラン。
イルミネーションのバリエーション洗い出しちゃうよ。
あらゆるクリスマスケーキから最適なケーキを選んで、
購入ルートも手配するし、
映画のレビュー熟読して、見終わったあと、
ふたりが思わずキスしたくなるようなの、えらんじゃうし
- 男
- きみの気合はハードル高いな。
- 女
- 仕事、できますから。
- 男
- いや、いい。何もしなくて。今年は俺が気合を入れる。
- 女
- なんの分野で気合いれるの。
- 男
- 分野?
- 女
- イルミネーションでしょ、レストランでしょ、映画でしょ。まさか、告白?
- 男
- えっ!
- 女
- は、済ませてるよね。三年前に。わたしから。
- 男
- う、うん。
- 女
- じゃあなんの分野に・・・
- 男
- 推理はよせ。今年は俺のターンだから。
- 女
- なんだか・・・
- 男
- なんだよ。
- 女
- 手汗がすごい。
- 男
- わっ、ご、ごめん。
- クラクションが鳴る。
- 男
- わあっ。
- 女
- 赤信号なのに行こうとするから!
- 男
- びっくりした。死ぬかと思った。はー。はー。
- 女
- ね、どうしたの! なに隠してるの!
- 男
- 推理は、よせ! はー。はー。いいか。気合を入れるのは俺だから!
- 女
- ・・まさか・・・
- 男
- や、やめろ!
- 女
- ・・そうなの。
- 男
- それ以上ゆうな!
- 女
- ・・・本気なの。
- 男
- 本気だ よ・・俺はいつでも本気だよ!
- 女
- そうなのね!
- 男
- だから、それ以上ゆうな! いいか、だいたいあってる。だいたいあってるけど、
まだだから。クリスマスはまだだから。いうなよ、それ以上!
- 女
- イエス!
- 男
- だから、
- 女
- イエスだよ!
- 男
- いうなって。
- 女
- わたし、イエスだから!
- 男
- 俺のターンだって!
- 女
- 手、つなぎたい。
- 男
- 手汗がすごいんだよ。
- 女
- いい。手。つないで。あなたはいつでも、最高だもの。
- おわり。