ゆきが降り出した町を恋人たちが歩く。
なんてことない恋人ふたりである。
デートの帰りか、仕事終わりの待ち合わせ。帰り道
ふー。さむい! 雪ふってるよー!
ほい。手。
彼の手はいつも暖かい。春も夏も秋も、冬も。いつでも暖かい。
冬の俺は最高だろ。
こういうの、太陽の手っていうんだよ。美味しいパンが焼けるの。
へえ。焼いたことないけど、焼いてみるか。パン。
女は笑う。
あー。あったかいな。右手だけ、温泉につかってるみたい。
冬の俺は最高なんだよ。
ふふ。クリスマスどうしよう。
今年は、・・・気合を入れようかと、思っている。
ほお。三度目のクリスマスですからね。じゃあ、ひとつがんばりますか。
いや。きみは、いい。何も気合入れなくていい。
どうして。私にも入れさせてよ気合。
いやその。
リストアップしちゃうよ。レストラン。
イルミネーションのバリエーション洗い出しちゃうよ。
あらゆるクリスマスケーキから最適なケーキを選んで、
購入ルートも手配するし、
映画のレビュー熟読して、見終わったあと、
ふたりが思わずキスしたくなるようなの、えらんじゃうし
きみの気合はハードル高いな。
仕事、できますから。
いや、いい。何もしなくて。今年は俺が気合を入れる。
なんの分野で気合いれるの。
分野?
イルミネーションでしょ、レストランでしょ、映画でしょ。まさか、告白?
えっ!
は、済ませてるよね。三年前に。わたしから。
う、うん。
じゃあなんの分野に・・・
推理はよせ。今年は俺のターンだから。
なんだか・・・
なんだよ。
手汗がすごい。
わっ、ご、ごめん。
クラクションが鳴る。
わあっ。
赤信号なのに行こうとするから!
びっくりした。死ぬかと思った。はー。はー。
ね、どうしたの! なに隠してるの!
推理は、よせ! はー。はー。いいか。気合を入れるのは俺だから!
・・まさか・・・
や、やめろ!
・・そうなの。
それ以上ゆうな!
・・・本気なの。
本気だ よ・・俺はいつでも本気だよ!
そうなのね!
だから、それ以上ゆうな! いいか、だいたいあってる。だいたいあってるけど、
まだだから。クリスマスはまだだから。いうなよ、それ以上!
イエス!
だから、
イエスだよ!
いうなって。
わたし、イエスだから!
俺のターンだって!
手、つなぎたい。
手汗がすごいんだよ。
いい。手。つないで。あなたはいつでも、最高だもの。
おわり。