ハアッ…ハァッ…ウウッ…どこなの。どこへ行くの。
嫌…行かないで……どこにも行かないで!!!!
おい!おい、どうしたんだ!
ウウッ、ううう…
落ち着いて
……ここに居たのね……
…夢を見ていたのか?
あなたが死んでしまう夢を見たの。
土を掘っても…どれだけ掘っても手が届かなくて、あたし、怖くて
おいおい、勝手に殺すな。なんだよ、その物騒な夢
良かった
大丈夫。ちゃんとここに居る
…こうしてあなたの手に触れてもぬくもりが分からない
仕方ないよ
私の手はどう?
冷たいよ
ふふふ、冷たいのかも分からないわ。どんな感覚だったかしら。
ダメね、生きていたときのこと、どんどん忘れているみたい
…仕方ないよ
あなたが私を土から掘り起こしてくれたのに、
今度は私があなたを掘り返すだなんて、おかしな話でしょう
本当にな
あなた。『死んでしまった魂はどこも行かない』と言っていたこと覚えている?
覚えているよ
あなたは死者を蘇らせることが出来る。
じゃあ、あなたが死んでしまったら、その魂はどこへ行くの?
俺も普通の人間と同じだ、どこにも行かない。残りたい場所に残る
じゃあ、私は?
君の場合は還るんだ、死ぬのとはまた違う
ここに還ってこられるかしら?
還ってこられるよ、きっとね
あなたが死んでしまったら、またどこかで会える?
安心しろ、会えるよ
うれしい
なんだなんだ、どうしたんだよ
明日も明後日もこれから先も、私があなたの傍に居るとは限らないでしょ?
あなたが私の傍に居てくれるともわからないわ。だって、ほら
“人って、ふとしたきっかけで一生会えなくなるもの”?
ふふふ、先に言わないでよ
ふとしたきっかけ…君はその言葉をよく使う
そうね。つい考えちゃうの
俺は年を取るから、いつか間違いなく死が来る
私は年を取らない
知ってるよ。
ああー、俺まだ死んだことないから分からないけど、死ぬって怖いんだろうなー
そうかしら。生きることも死ぬことも、違うようでよく似ているわよ。
だって、生きているあなたと、死んでいる私、一体何が違う?
……あまり変わらないかもな
でしょう?
君は…怖くないのか
そうね、あまり怖くないわね
逞しいな。どうしてだ?
私は死ぬことよりもあなたと同じ時間を生きられなくなることの方が怖いもの。
…次死ぬときはあなたの隣がいいわ。…だから、私と結婚してください