- 女
- この前さ、みっちゃんち、二人で行ったやんか
- 男
- うん
- 女
- あのさ、ちょっとそのことで言いたいことあんねんけど
- 男
- え、なに?
- 女
- 自分、めっちゃネコ好きやねんな
- 男
- うん。そうよ、俺。ネコめっちゃ好きよ。みっちゃんちのネコすごい可愛かったね。
名前なんやったっけ?
- 女
- マロン
- 男
- そうそう、マロンちゃん。マロンちゃん可愛かったなあ
- 女
- めっちゃみっちゃんのあのネコのこと可愛がってたよね。私、自分があんな感じなんの
初めて見たわ
- 男
- だって、マロンちゃん、めちゃくちゃ可愛かったもん。俺、もうねえ、可愛い子見たら、
あんな感じになっちゃうんよね
- 女
- 可愛い子?
- 男
- あー、猫のことやね
- 女
- 猫のこと子って言うんやね
- 男
- 俺はそうよ
- 女
- 私な、自分があんな感じで可愛がってるのって初めて見たわ
- 男
- そうやったっけ? 俺、猫見たらあんな感じになんねん。憶えといて
- 女
- 私な、自分があんな感じで可愛がってんの初めて見た
- 男
- いや、聞いたって。何度も何度もなんなん?
- 女
- 私な、自分からあんな感じで可愛がられたことない
- 男
- え、なになに? どういうことどういうこと
- 女
- 私な、自分からあんな感じで可愛がられたこと一度もない
- 男
- まあなあ。一度もないけど。人間に対してはあんな感じにはならへんからなあ
- 女
- 一度もないねんで、一度も。もう何年も付き合ってるのに、私たち。何年も付き合ってるのに、
一度も、一度もないねんで
- 男
- え、なに。嫉妬してんの?
- 女
- 嫉妬っていうか。おかしいやんって話。私、自分が猫可愛がってるみたいに可愛がられたこと
一度もないのっておかしいやんって話。私、なんなん? 自分の恋人やで
- 男
- いや、嫉妬してるやん
- 女
- 可愛がってくれ、私のこと。猫を可愛がるように、私のことを
- 男
- えー
- 女
- なんや、私は。自分にとって、猫以下の存在なんか。みっちゃんちのマロンとかいう猫以下の
存在なんか。可愛くないんか、私は。私は可愛くないんか
- 男
- いや、でも、人間に対してはあんな感じにならんからな
- 女
- わかった。私が猫やったら、あんな感じで可愛がるんやな
- 男
- どういうことどういうこと
- 女
- 私は猫や。猫やと思え。ほんで、猫やと思って可愛がれ
- 男
- は? どういうこと?
- 女
- にゃーにゃー
- 男
- いやいや、なにしてんの?
- 女
- にゃーにゃー
- 男
- いやいやいや
- 女
- 自分の大好きな猫やで。にゃーにゃー。さあ、いつものように可愛がれ。にゃーにゃー
- 男
- もう。仕方がないなあ
- ――終わりです。