この前さ、みっちゃんち、二人で行ったやんか
うん
あのさ、ちょっとそのことで言いたいことあんねんけど
え、なに?
自分、めっちゃネコ好きやねんな
うん。そうよ、俺。ネコめっちゃ好きよ。みっちゃんちのネコすごい可愛かったね。
名前なんやったっけ?
マロン
そうそう、マロンちゃん。マロンちゃん可愛かったなあ
めっちゃみっちゃんのあのネコのこと可愛がってたよね。私、自分があんな感じなんの
初めて見たわ
だって、マロンちゃん、めちゃくちゃ可愛かったもん。俺、もうねえ、可愛い子見たら、
あんな感じになっちゃうんよね
可愛い子?
あー、猫のことやね
猫のこと子って言うんやね
俺はそうよ
私な、自分があんな感じで可愛がってるのって初めて見たわ
そうやったっけ? 俺、猫見たらあんな感じになんねん。憶えといて
私な、自分があんな感じで可愛がってんの初めて見た
いや、聞いたって。何度も何度もなんなん?
私な、自分からあんな感じで可愛がられたことない
え、なになに? どういうことどういうこと
私な、自分からあんな感じで可愛がられたこと一度もない
まあなあ。一度もないけど。人間に対してはあんな感じにはならへんからなあ
一度もないねんで、一度も。もう何年も付き合ってるのに、私たち。何年も付き合ってるのに、
一度も、一度もないねんで
え、なに。嫉妬してんの?
嫉妬っていうか。おかしいやんって話。私、自分が猫可愛がってるみたいに可愛がられたこと
一度もないのっておかしいやんって話。私、なんなん? 自分の恋人やで
いや、嫉妬してるやん
可愛がってくれ、私のこと。猫を可愛がるように、私のことを
えー
なんや、私は。自分にとって、猫以下の存在なんか。みっちゃんちのマロンとかいう猫以下の
存在なんか。可愛くないんか、私は。私は可愛くないんか
いや、でも、人間に対してはあんな感じにならんからな
わかった。私が猫やったら、あんな感じで可愛がるんやな
どういうことどういうこと
私は猫や。猫やと思え。ほんで、猫やと思って可愛がれ
は? どういうこと?
にゃーにゃー
いやいや、なにしてんの?
にゃーにゃー
いやいやいや
自分の大好きな猫やで。にゃーにゃー。さあ、いつものように可愛がれ。にゃーにゃー
もう。仕方がないなあ
――終わりです。