- ここは学校。
- 男
- もしかして、キミ、内ももの左側に星形のホクロがある?
- 女
- ありますけど。
- 男
- じゃあ、やっぱり。
- 女
- もしかして、先生、お尻の左側に星形のホクロがある?
- 男
- ある。
- 女
- ああ、そう……。二人 (溜息)はぁーあー。
- 男
- また、お前なのか。
- 女
- また、あんたなのね。
- 女
- こんなのもう、運命じゃなくて、呪いだわ。
- 男
- だったら、俺と結ばれなければいいだろ。
- 女
- しょうがないじゃない。どうしても好きになっちゃうんだから。
- 男
- 俺だって、好きになりたくて好きになってねーよ。
- 女
- 何度生まれ変わっても、また恋に落ちてしまうのよねぇ。
- 男
- なんでお前は、いつもいつも、こうも俺のタイプなんだ。
- 女
- あんたのほうこそ。
- 男
- もう、これで何回生まれ変わった?
- 女
- 百回目からは数えてないわ。
- 男
- また添い遂げてしまうのか。
- 女
- あんたがウホウホ言ってた頃が懐かしい。
- 男
- お前だってウホウホ言ってただろ。
- 女
- 大体あんたも生まれ変わりすぎなのよ。どれだけ未練があるの、この世に。
- 男
- 俺はもっといろんな人と恋愛がしたいんだよ。
- 女
- じゃあ、さっさとどこかに行きなさいよ。
- 男
- もう今回の人生は無理だ。お前に夢中になったんだし。最悪だよ。
- 女
- この間の1843年がチャンスだったのに。あたしサンフランシスコに生まれたのよ?
- 男
- 俺だって、数世紀ぶりの日本を楽しんでたさ。
- 女
- やっと違う人と添い遂げられると思ったのに。
- 男
- しょうがないだろ。使節団になっちゃったんだから。岩倉さんが無理やり、
- 女
- うるさい。この調子じゃ、火星に生まれてもあんたと一緒になりそうだわ。
- 男
- それどころか、魚に生まれても花に生まれてもだ。あまり覚えていないが、花粉になってお前のところまで風に舞った記憶もある。
- 女
- ああ、恐ろしい。
- 男
- 思い切って、離れてみるか?
- 女
- え?
- 男
- 今回は、気持ちを押さえつけて。
- 女
- 嫌よ。
- 男
- そうか。
- 女
- 世界中のどこを探しても、あんた以上に魅力的な人は一人も見つからないわ。少なくとも、今回の人生においてはね。あんただって同じでしょ。
- 男
- まあ、そうだな。お互い来世に期待しよう。
- 女
- いっそ心中でもしちゃう?
- 男
- 嫌だよ。平安の頃に一度しただろう。俺の輪廻人生で一番寒い思いをした。
- 女
- だから今度は海じゃなくて、
- 男
- 熱いのも痛いのも苦しいのも嫌だ。
- 女
- いくじなしねぇ。
- 男
- もう二度と、お前にあんな思いをさせたくないだけだ。
- 女
- そう?あたしは結構幸せだったけど。輪廻ランキングでも上位に入るわ。
- 男
- 変な女だよ。
- 女
- あんたの好みでしょ。
- 男
- さて、どうしようか。
- 女
- そうねぇ。心中、駆け落ち、一目ぼれ、プラトニック、同性愛、近親愛、いろんなパターンを経験してきたけど、意外にも初めてだったわね。先生と生徒。
- 男
- ま、お前が卒業するまでしばらく待つしかないか。
- 女
- 幾星霜の輪廻に比べればほんの一瞬でしょ。それとも、今手を出す?
- 男
- 我慢するさ。それがこの時代のルールだ。
- 女
- やっぱりあんた、どこで出会ってもいい男ねぇ。
- 男
- 先生と呼びなさい。
- 女
- ねえ、先生。いつかあたしがAIになっても、あたしに恋に落ちてくれる?
- 男
- 出会ってしまわないことを祈るよ。
- END