神戸市北区にある賃貸マンション。ベルが鳴る。
はーい。
宅急便です。
はーい。
ガチャっと扉が開く音。
サインお願いします。
はーい。
・・・きれいな手ですね。
そうですか?
よく手入れされている・・・。
夫はそんなこと言ってくれません・・・。
奥さん!
あっ、何をなさいます!
いいじゃないですか!
扉の閉まる音。
奥さん!
なあ、もう、やめへん?
・・・奥さん!
もうやめよって。
・・・もう!!!いい感じやったのに!!
ごめんって。
ごめんじゃないで?僕がこの日のためにどれだけ用意してきたか。
ネットで配達員っぽい帽子を買い、ブルゾンを買い・・・!
この伝票だってほんもんやもんね。
そうやで!それもこれもマンネリ化した夫婦生活をなんとかしようとする、
僕なりのソリューションやんか!
そうなんやけどお。
何があかんねや!!配達員と人妻の何が!!
なんか・・・先がないというか・・・。
先?
この後、どうなんの?
えっ。
配達員と奥さん、どうなんの?
えっ。だから、その、関係を持つよね。古風に言えばね。
それで?
えっ?
その後どうなんの?愛が芽生えるんかな。
えっと・・・。
あのな、私の中のキャラ設定ではこの奥さんは、長年夫にはあんまり相手にされてへんねん。
だからすごく愛されることを求めてる。だから、配達員の情熱に心が動いてしまうねん。
うんうん。
配達員は、どうなんかな?奥さんには本気になんの?
え、そこまで考えてへんかったな。
なんで考えへんの!
ごめんなさい。
ゆうくん、私はな、火遊びとかそんなん、苦手なタイプやねん。真剣な恋愛じゃないと、
燃えられへんわ。たとえこんなお遊び企画でも。
ここちゃん。
ごめん、わがままな女で。
いいねん。
ごめん、合わせることのできない女で。
いいねん。そういうここちゃんやから、僕は好きになったんや!
ゆうくん!
わかったで。僕、もっと配達員のディテール詰めるわ。
私も洋子の気持ちをもっと考えてみる。・・・洋子って、奥さんの名前。
わかってるで。
あつかましいお願いなんやけど、夫役、やってもらわれへん?その方が洋子の気持ちを
もっと深められる気がするねん。
名前は、何にする?
じゃあ、篤史(あつし)で。
かしこまりました。
あなた、今日も遅いの?
しょうがないだろう。仕事なんだから。
あなた、もう私を愛してないの・・・?
お前のような地味な女は飽き飽きだよ。
あなた。
放してくれ。今から新地に行ってくる!
あなたああ!!
玄関のベルが鳴る。女、インターホン越しに、
はーい。
宅急便です。
はーい。
はっ。待って、ここちゃん!!今のここちゃん、出るの危険!! ・・・ここちゃん、
なんで配達員の人に恋する目になってんの!ここちゃん、戻ってきて!!
終わり。