- 神戸市北区にある賃貸マンション。ベルが鳴る。
- 女
- はーい。
- 男
- 宅急便です。
- 女
- はーい。
- ガチャっと扉が開く音。
- 男
- サインお願いします。
- 女
- はーい。
- 男
- ・・・きれいな手ですね。
- 女
- そうですか?
- 男
- よく手入れされている・・・。
- 女
- 夫はそんなこと言ってくれません・・・。
- 男
- 奥さん!
- 女
- あっ、何をなさいます!
- 男
- いいじゃないですか!
- 扉の閉まる音。
- 男
- 奥さん!
- 女
- なあ、もう、やめへん?
- 男
- ・・・奥さん!
- 女
- もうやめよって。
- 男
- ・・・もう!!!いい感じやったのに!!
- 女
- ごめんって。
- 男
- ごめんじゃないで?僕がこの日のためにどれだけ用意してきたか。
ネットで配達員っぽい帽子を買い、ブルゾンを買い・・・!
- 女
- この伝票だってほんもんやもんね。
- 男
- そうやで!それもこれもマンネリ化した夫婦生活をなんとかしようとする、
僕なりのソリューションやんか!
- 女
- そうなんやけどお。
- 男
- 何があかんねや!!配達員と人妻の何が!!
- 女
- なんか・・・先がないというか・・・。
- 男
- 先?
- 女
- この後、どうなんの?
- 男
- えっ。
- 女
- 配達員と奥さん、どうなんの?
- 男
- えっ。だから、その、関係を持つよね。古風に言えばね。
- 女
- それで?
- 男
- えっ?
- 女
- その後どうなんの?愛が芽生えるんかな。
- 男
- えっと・・・。
- 女
- あのな、私の中のキャラ設定ではこの奥さんは、長年夫にはあんまり相手にされてへんねん。
だからすごく愛されることを求めてる。だから、配達員の情熱に心が動いてしまうねん。
- 男
- うんうん。
- 女
- 配達員は、どうなんかな?奥さんには本気になんの?
- 男
- え、そこまで考えてへんかったな。
- 女
- なんで考えへんの!
- 男
- ごめんなさい。
- 女
- ゆうくん、私はな、火遊びとかそんなん、苦手なタイプやねん。真剣な恋愛じゃないと、
燃えられへんわ。たとえこんなお遊び企画でも。
- 男
- ここちゃん。
- 女
- ごめん、わがままな女で。
- 男
- いいねん。
- 女
- ごめん、合わせることのできない女で。
- 男
- いいねん。そういうここちゃんやから、僕は好きになったんや!
- 女
- ゆうくん!
- 男
- わかったで。僕、もっと配達員のディテール詰めるわ。
- 女
- 私も洋子の気持ちをもっと考えてみる。・・・洋子って、奥さんの名前。
- 男
- わかってるで。
- 女
- あつかましいお願いなんやけど、夫役、やってもらわれへん?その方が洋子の気持ちを
もっと深められる気がするねん。
- 男
- 名前は、何にする?
- 女
- じゃあ、篤史(あつし)で。
- 男
- かしこまりました。
- 女
- あなた、今日も遅いの?
- 男
- しょうがないだろう。仕事なんだから。
- 女
- あなた、もう私を愛してないの・・・?
- 男
- お前のような地味な女は飽き飽きだよ。
- 女
- あなた。
- 男
- 放してくれ。今から新地に行ってくる!
- 女
- あなたああ!!
- 玄関のベルが鳴る。女、インターホン越しに、
- 女
- はーい。
- 声
- 宅急便です。
- 女
- はーい。
- 男
- はっ。待って、ここちゃん!!今のここちゃん、出るの危険!! ・・・ここちゃん、
なんで配達員の人に恋する目になってんの!ここちゃん、戻ってきて!!
- 終わり。