- 男と女、手錠でつながれており、男は外そうとガチャガチャしている。
- 男
- えーと、ううん、うーん……。
- 女
- なあ、それ、逆ちゃうの?
- 男
- え?
- 女
- 向き。
- 男
- いや、向きはおうてるって……。
- 女
- それ、ほんまの鍵?
- 男
- ほんまの鍵っていうか、手錠とセットでついてきたやつやん。
- 女
- ちょお、痛いって!
- 男
- ごめん、ごめん、ごめん。
- 女
- もー……。手首、赤なってきたやん。
- 男
- 赤なってるのはええやんけ。
- 女
- はあ?
- 男
- 赤なってるうちは大丈夫やろ。青なってきたらヤバいけど。
- 女
- はよ外して。
- 男
- うん。……お前な、そうやって腕ひいたら、やりにくいねん。
- 女
- 痛いねんもん。
- 男
- 俺だって痛いよ。
- 女
- それ、だから、向き逆ちゃうの?
- 男
- 向きはおうてるって。ほな、お前やってみいや。
- 女
- (鍵を受け取り)こっち向きに差すんちゃうん?
- 男
- そもそも入るん?
- 女
- 入れようと思ったら入るし。(と、無理にねじ込む)
- 男
- それで回してみいや。
- 女
- ……回らんけど。
- 男
- ほらな。鍵、貸して。
- 女
- ほらなって、別に一回試しただけやん。
- 男
- うん。
- 女
- なんでそんな言い方されなあかんの?
- 男
- ごめん、ごめん。
- 女
- そういうとこほんま嫌い。
- 男
- 鍵貸して。
- 女
- もう抜けへんよ。
- 男
- え?
- 女
- なんかもう、ガチガチにハマってもうたもん。
- 男
- 嘘やろ、お前。(鍵を抜こうとする)いや、固まってもうてるやん。
- 女
- うん。
- 男
- いやお前、どうすんねん。
- 女
- もう、ちょっと別れたいです。
- 男
- いやいや、そういうことじゃなくて。
- 女
- ニコニコ顔で手錠を持ってきたときから、決めてました。
- 男
- いやいや。
- 女
- ほかの方と幸せになってください。
- 男
- まあええわ。ほな、そのためにも、まずじゃあこれを……。
- 女
- そのためにも?
- 男
- そのためにも、っていうか。
- 女
- あ、もう別れるんですね?
- 男
- いやいや。
- 女
- あ、じゃあ外しましょう。そのためにも。頑張りましょう。
- 男
- ちょお、ちゃうやん。そういうことじゃないやん。
- 女
- じゃあどういうことなんですか?
- 男
- マジでもう、そんなんゆうんやったら、一生外れんでもいいよ。
- 女
- ええの?
- 男
- ええよ。
- 女
- ずっとこのまま?
- 男
- ずっとこのままでええよ。俺は。お前となら。
- 女
- ……(甘えた声で)好き。
- 男
- (甘えた声で)俺も。
- 女
- やん、もう、にゃーん。
- 男
- にゃはは、ふふーん。
- しばしイチャイチャする。
- 女
- あ、ちょ、痛い。
- 男
- あ、ごめんごめん。
- 女
- そろそろ。
- 男
- いや、俺マジで仕事行かなあかん。
- 女
- なんかペンチとか探そっか。
- 男
- おう。めちゃめちゃ不良品やったな、これ。
- 女
- あんま変なサイトで買いなや?
- 男
- おう。
- 二人、長年連れ添った夫婦のように、冷静に、てきぱきと。
- END