- そばがら
- 次のかたどうぞ。
- 初子
- 失礼します。
- そばがら
- えー、このたびは、劇団うっかりコロンブスの劇団員オーディションにお越しいただいてありがとうございます。わたくし座長のそばがら枕と申します。
- 初子
- 今出川初子と申します。よろしくお願いします。
- そばがら
- ではさっそくですが、この台本を元に演技をしてもらいます。(台本をわたす)これは僕が書いた、次回公演の冒頭なんですが。
- 初子
- 登場人物、久保君、小林さん・・・。
- そばがら
- 小林さんをお願いします。久保君は僕が読みます。
- 初子
- わかりました。
- そばがら
- (ト書きを読む)舞台は近大の生協前。雨が降っている。佇む二人。「雨、やな。」
- 初子
- 「雨、やね。」
- そばがら
- 違う!!
- 初子
- えっ?
- そばがら
- もっとささやく感じで。いいですか、雨が降ってるんですよ? 想像してください。
何月だ? 七月だ。
- 初子
- 「雨、やね。」
- そばがら
- オッケー!「傘、持ってる?」
- 初子
- 「持ってない。駅まで走ろっか。」
- そばがら
- 「結構、降ってるで。」
- 初子
- 「大丈夫。」
- そばがら
- 「でも、小林さんが濡れたら。」
- 初子
- 「いいよ。」
- そばがら
- 「よくないよ。」
- 初子
- 「いいよ。」
- そばがら
- 「よくないよ。」その時現れる、別の女、アヤ。アヤもお願いします。
僕は久保君に集中したいんで。
- 初子
- 「おーい、かなめー。」
- そばがら
- 違う!!もっとショートカットの女の子の気持ちで! 小麦色の肌の気持ちで!
- 初子
- ちょっとわかんないですけど。
- そばがら
- なんでわかんないんだよ!
- 初子
- 「おーい、かなめー。」
- そばがら
- やればできるじゃん。
- 初子
- 「早く勉強教えてやー。」
- そばがら
- 「下の名前で呼ぶなや、つきあってるわけちゃうんやから。」次、小林さん!
- 初子
- 「あっ、お友達?」
- そばがら
- アヤ!
- 初子
- 「えっ、誰? 彼女? ウソ・・・。」
- そばがら
- 涙をためて走り去るアヤ。走り去って!
- 初子
- えっ?
- そばがら
- 実際走って!
- 初子
- ああ。(走り去る)
- そばがら
- 「待てよ!」
- 初子
- え?
- そばがら
- 何してんの、早く行って!
- 初子
- はい!(行く)
- そばがら
- 「待てよ!」
- 初子
- え?
- そばがら
- なんで待つんだよ!!
- 初子
- 待ってって。
- そばがら
- これはセリフでしょう!
- 初子
- わかんない・・・。
- そばがら
- 次、小林さん!!
- 初子
- 「今の、誰?」
- そばがら
- 「幼馴染。」
- 初子
- 「追わんで、ええの?」
- そばがら
- 「ええよ別に。」ここで小林さん、久保君にビンタ!
- 初子
- え?(戸惑う)
- そばがら
- たたいて! 早くたたいて! 強く! 強くでいい!
- 初子
- 「バカ!」(たたく)
- そばがら
- (嬉しそうに)「小林、さん?」
- 初子
- なんで嬉しそうなんですか。
- そばがら
- えっ?
- 初子
- 「なんでわからへんの? 彼女、久保君のことが好きなんやん!」
- そばがら
- そして走り去る小林さん!
- 初子
- 「バカ!」
- そばがら
- 「雨が・・・やまないな・・・。」暗転。これで第一場終了です。いい台本でしたね。
- 初子
- あの、この物語、この後どうなるんですか?
- そばがら
- 第三、第四の女が出て来て皆僕を・・・久保君を好きになるんです。ラストシーンは僕と小林さんとの一分間にわたる感動的なキスシーンです。
- 初子
- 久保君をやるのは・・・
- そばがら
- 僕の予定です。
- 初子
- そうですか。
- そばがら
- なんですか、その吐しゃ物を見るような目は。
- 初子
- いいえ。小林さんをやるのは?
- そばがら
- 決まってません。この台本をやるとなって、急に女の劇団員がやめてしまいまして。
なんでだろう。あれ?今出川さん?いない!どこに行ったんだー!!
- 終わり。