昼さがり、窓際のほうへむかう二人。
そういう口実なんですが――ながめがね、いいんですよ。ここ。
となり、座りますね。
席、空いていてよかった。
明日からなんですね。床びらき。
そう。だから、今は川が流れているだけやけど。
ひと月前は、花いかだを目にするくらいだったのに。
見ごろは通り過ぎてしまったね。
お花見はされたんですか?
しなかったね。忙しくて、それどころじゃ。
みじかいですからね。花のいのちは。
すぐに老いぼれてしまうからね。ぼくも――いつから、この世界に入ったの?
十代のときですね。
早いね。
遅いですよ。だって、まわりは、
そんなに、生き急がなくていいですよ。あなたは。
上の人たちが見ている場所を、わたしも見たいんですね。
ぼくも――死ぬまでに出世できるのか。
下の世代を、どう見てるんですか?
眼中に入ってるんかな。先行きは明るいですか?
見えなくて怖い――?
暗いから?
後ろ暗いから? 未だに目を光らせてる人たちもいますし。わたしたちに。
どうして?
目ぼしいオスをとられた彼女らの眼ざしは、いつだって群れをなすんです。
男、窓の外へ目をやると、
動物じゃあないんだから。
水入らずの夜が、
陸地の生き物が飛び込んだのか、
あったじゃないですか――
水しぶきがあがる。
生温い風が吹いていて、汗ばむんですね。春はおろか、
すでに夏が始まろうとしているから。
肌身はなさずにいた厚化粧もはがれて、
色うつりまでして。冷えるのに薄い布、つぎあわせた服を着ている。
ついた染みは鱗のようにはならなくて、
それとも、魚が跳んでいたのか。
――こいは、どこまでのぼっていくんでしょう。
ぼくらの話?
みじかいですからね。花のいのちは。
あれは、ほんとうに「こい」だったのか――?
梅雨に濡れたって、潤いはとりもどせないんです。
どこからか、雨のにおいがしてくる。しめきった窓。
――湿っぽくなってきたな。
いつまで、降られるんですかね?
どこかで、雨宿りをしませんか?
ながめ――がね、よかったのになって。行きたい場所があって、
ここからは遠いですか?
席、空いてていいのになって。
どこも埋まって――ないですよ。近場は。
来ませんか? うちに。
――その話、
立ち往生しているのは行き場を失った暗雲ではなく、いつしかの夜である。
寝ても醒めても、覚えているんです。わたしは。
ぼくだって、起きれば忘れないんですよ。
尾ひれはひれをつけるつもりはなくて。でも――
女、むこう岸を見つめ、
零れてしまうんですね。浅ましい言葉が。
どこへ行きたいの?
どこから来たかといえば、後ろからです。
前じゃなく?
あの日、目の前の人にふりむいてもらえなかった。
次がありますよ。あなたは、ぼくより若いんだから。ずっと。
さかのぼる――って、罪深いですか?
一杯、注文しますか?
お茶を濁さないでください。
飲まないの?
飲まれるんですか?
いつも、昼間から酔いにかかる体たらくなんでね。四十も半ばだというのに。
三軒目が、うちでしたもんね。
二人でね。
あの川をね。どこまで、あがっていけるのかなって。
来た道だけ、くだっていったね。
いってしまえば、おしまいだって。でも、込みあげてきてしまって。
ぼくは、途中で水がほしくなって。
だから、喉をつまらせるんですね。口があるのに、息もできなくなって。