- 中学校の理科室。
            男、ドアを開け、外の様子を伺う。 
        - 男
 
        - うん、廊下には誰もいない。
 
        - 女
 
        - それでは、化学実験部の極秘部活動を始める。
 
        - 男
 
        - 吉村先生に内緒で大丈夫かな。
 
        - 女
 
        - 今日の実験は部外秘である。吉村先生も例外ではない。
 
        - 男
 
        - うん。
 
        - 女
 
        - 山田、ビーカーを。
 
        - 男
 
        - これでいい?
 
        - 女
 
        - うむ。そこにリンゴの皮を少々。
 
        - 男
 
        - 僕がむくよ。
 
        - 女
 
        - できるのか?
 
        - 男
 
        - うん、家でもたまに手伝うし、得意なんだ。
 
        - 女
 
        - 今日は山田が被験者でもあるのに、悪いな。
 
        - 男
 
        - ううん。
 
        - 男、リンゴの皮をむく。
 
        - 女
 
        - 慣れた手つきだ。
 
        - 男
 
        - へへへ。
 
        - 女
 
        - そしてカカオ、ハチミツ、イチジクを入れる。
 
        - 男
 
        - なんだか、おいしそうだね。
 
        - 女
 
        - ここまではな。
 
        - 男
 
        - その、ピンク色の玉はなに?
 
        - 女
 
        - ヒツジの睾丸だ。
 
        - 男
 
        - えっ。いったいどこで。
 
        - 女
 
        - 叔父がトルコ料理屋を営んでいる。
 
        - 男
 
        - もらったの?
 
        - 女
 
        - 拝借した。
 
        - 男
 
        - 盗んだんだね。
 
        - 女
 
        - さらに麻の実、ラベンダー、イモリの黒焼き。
 
        - 男
 
        - わあ。
 
        - 女
 
        - そして赤ワイン。
 
        - 男
 
        - お酒持ってきちゃったの?
 
        - 女
 
        - 部外秘だぞ。
 
        - 男
 
        - さっちゃん、これはいったい、何になるの?
 
        - 女
 
        - 山田、リンゴの皮を。
 
        - 男
 
        - あ、うん。
 
        - 女
 
        - 上出来だ。それを入れて、混ぜる。ガラス棒を。
 
        - 男
 
        - はい。
 
        - ぬちゃぬちゃという音。
 
        - 男
 
        - うわあ。
 
        - 女
 
        - 最後に、バニラエッセンスを少々。
 
        - 男
 
        - 塗り薬であれ。
 
        - 女
 
        - 飲み薬だ。
 
        - 男
 
        - やはり。
 
        - 女
 
        - 山田。さあ、グイッといくがよい。
 
        - 男
 
        - これは、なんの薬なの?
 
        - 女
 
        - 惚れ薬だ。
 
        - 男
 
        - 惚れ薬?
 
        - 女
 
        - 果たしてこの調合でうまくいったかどうか。さあ、グイッといくがよい。
 
        - 男
 
        - ・・・これさ、さっちゃんが飲みなよ。
 
        - 女
 
        - なぜ?
 
        - 男
 
        - 僕が飲んでも、実験が成功したかわからないよ。だって僕、すでに。
 
        - 女
 
        - 山田、貴様。飲みたくないからって嘘をついているのではあるまいな。
 
        - 男
 
        - 違うよ! 僕、結構前から、さっちゃんのこと。
 
        - 女
 
        - ・・・そうだったのか。
 
        - 男
 
        - うん。だから。
 
        - 女
 
        - ならば、私が飲んでも意味はない。私だって、すでに。
 
        - 男
 
        - なら、これはもう、片付けようね。
 
        - 女
 
        - 仕方がない。実験は失敗に終わった。
 
        - 男
 
        - ああ、良かった。
 
        - 器具や材料を片付ける。
 
        - 女
 
        - しかし、山田。貴様からまだ、愛の言葉を聞いていないではないか。
 
        - 男
 
        - え?
 
        - 女
 
        - 極秘部活動、継続だ。自白剤の調合を始める。タランチュラの粉末を少々。
 
        - 男
 
        - 大好きだよ、さっちゃん。大好き、大好き。
 
        - END