- 生徒
- あ! 先生だ! おーーーい! よもぎせんせーい!
- よもぎ
- 春! 河川敷! 風がびゅーっと吹いて、桜のはなびらが舞っている。大きく手を振りながら、
生徒が私目指して走ってくる!
- 生徒
- はあ! はあ!
- よもぎ
- しまった。見つかったか。日曜日、私は教師という職から束の間離れ、近くのカフェエに
行こうとしていたのだ。春のカフェエのスイーツにはだいたいイチゴが乗っている。特に、
クリームブリュレにイチゴが乗っているのに目がない私は、待ちに待ったこの日に、
この河川敷、カフェエへの近道を歩いていたのだ。
- 生徒
- よもぎ先生! そこ、動かないでくださいねーーー!
- よもぎ
- たしかに迷ったのだ。家をでるとき、自転車でいくか、歩いていくか。しかし、
漂う春の陽気に負けて、歩く事を選んでしまったのだ。
- 生徒
- はあー、やっと追いついた!
- よもぎ
- くそう。自転車だったら華麗にやり過ごせたのに! しかし、見つかってしまったのだから
仕方がない。ブリュレモードからティーチャーモードにメタモルフォーゼだ。しゅっ。
- 生徒
- 先生歩くの早い!
- よもぎ
- やあ。奇遇ですね。3年1組の林ジャンル。
- 生徒
- 林ジャンル? わたし、少林寺弓子ですけど、
- よもぎ
- しまった気が抜けていた。小林、杉田、少林寺は林ジャンル、青山、山田、山内は山ジャンル。
生徒の名前をジャンル分けして覚えていたのだ。まったく日曜日のメタモルフォーゼは
やりづらい。失礼しました。少林寺さん。いったいどうしたんですか。
- 生徒
- 分からないことがあって。
- よもぎ
- なるほど。いよいよ貴方も受験生です。先生何でも答えますよ。
- 生徒
- えっと
- よもぎ
- 大丈夫です、先生の頭の中にはちゃんと教科書が入っていますからね。
いったいどの教科が分からないんですか。
- 生徒
- えっと。。。恋が!!
- よもぎ
- こい?
- 生徒
- はい!
- よもぎ
- 少し時間をくれますか、先生、今脳内検索していますから。こいこいこい・・・
- 生徒
- いいです! 検索しなくって! わたし、いま、先生に質問してませんから!
- よもぎ
- は? え、え?
- 生徒
- 毎日、わたしの通う学校で、教職をしている、よもぎ太一郎さんに聞いています!
- よもぎ
- なるほど。この、よもぎ太一郎に。・・・しゅゅゅゅうううう
- 生徒
- なんの音ですか?
- よもぎ
- メタモルフォーゼが解ける音だ。
- 生徒
- メタモルフォーゼ? してたんですかメタモルフォーゼ!
- よもぎ
- いろいろあるんだ大人には。それで恋をしてるのか。
- 生徒
- ・・・はい。同じクラスの小山田くんに。
- よもぎ
- ああ、山ジャンルのメガネの彼だな。
- 生徒
- でも、、、小山田くんが何を考えてるのか分からなくて。あたし、勉強が全然すすまなくて。。。
- よもぎ
- 林ジャンルよ。確かに小山田は、何を考えてるのか分からない。きっと何も考えていない。
彼が何を考えてるかを考えても何の答えも出てこないだろう。苦しいな。
- 生徒
- はい。苦しいです!
- よもぎ
- いいか、林ジャンルよ。この、よもぎ太一郎が言えることはただ一つだ。
- 生徒
- はい! なんだか先生のときより頼もしい!
- よもぎ
- クリームブリュレはイチゴを乗せているだけで、何も考えてはいない!
- 生徒
- えっ。
- よもぎ
- ただ、わたしが好きなだけだ! それだけだ!
- 生徒
- えっ。
- よもぎ
- では、よもぎ太一郎は今ブリュレに忙しい。さらばだ!
- 生徒
- よもぎ、よもぎせんせーーーーい! ・・・すごい早歩き・・・ そっか、あたし、ただ、
好きなだけなんだ、、、!
- よもぎ
- 教科書にのっていない話しをする日曜日もたまにはいいもんだ。そうしてわたしは
カフェエにたどり着き、クリームブリュレを味わった。来週も先生を頑張ろうと思う。
- 終わり