- ピアノの曲。
- 男
- 気がつけば私は白い壁に囲まれていた。白い天井、白いカーテン。ここは・・・。
- 看護婦、カーテンを開ける。
- 看護婦
- 気がつきましたか?
- 男
- ここは・・・?
- 看護婦
- アルジェリアですよ。…嘘ですよ。ここは生駒山の麓、東大阪市にある
トランス記念病院ですよ。
- 男
- 東大阪・・・?うっ。私は・・・誰だ?
- 看護婦
- 鈴木さん、落ち着いて。
- 男
- 鈴木?私は鈴木というのですか?
- 看護婦
- さあ・・・
- 男
- さあ?
- 看護婦
- あなたの名前がわからないので、とりあえず一番よくある名前で呼んでみたんです。
佐藤さん。
- 男
- 変わってるじゃないですか!
- 看護婦
- ではあなたのお好きな名前で呼びましょうか。
- 男
- ・・・では、ルフィ。ルフィと呼んで下さい。
- 看護婦
- ・・・ルフィ。
- 男
- やっぱりやめてください!
- 看護婦
- どうして、ルフィ?いい名前じゃない、ルフィ。ルフィ。
- 男
- ああ・・・。
- ピアノ曲。
- 男
- ・・・私はいつからここにいるんですか?
- 看護婦
- あれは1ヶ月前のことです。淀川のほとりに打ち上げられている男性がいたんです。
それがあなた、ルフィです。
- 男
- ほかに何か私に関する手がかりは?
- 看護婦
- 残念ながら、何も・・・。
- 男
- そうですか・・・。
- 看護婦
- あ、そうだ。これ、いります?あなたが発見された時に手に握っていたメモなんですけど。
- 男
- 早く出してくださいよ!!
- 看護婦
- なんか汚いから捨てようと思ってたんですけど。
- 男
- なんて女だ!(メモを開ける) 「しょう・・・ 忘れない」
- 看護婦
- しょう、の後の文字が一文字だけ汚れて見えないですね。
- 男
- (はっとして)しょうこだ。
- 看護婦
- しょうこ?
- 男
- しょうことは誰だ・・・?僕の妻か、恋人か・・・?
(頭を押さえて)うっ・・・!頭が・・・!
- 看護婦
- 今日はもうお休みになって。
- 男
- その後、私は自分が誰なのか調べてもらうよう、興信所に依頼した。
そして徐々にしょうこの事を思い出していた。顔なんかは全然思い出せないのだが・・・。
彼女はいつも台所にいて・・・しょうこがいないと物足りないんだ。
しょうこがいないと何を食べても美味しくないんだ・・・。そして、一か月後。
- 看護婦
- ルフィ、探偵から、調査結果がきましたよ。
- 男
- 見るのが怖い・・・読んでくれませんか。
- 看護婦
- 「調査結果。名前、現住所などは調査するも不明。」
- 男
- そうですか・・・。
- 看護婦
- 「しかし、父親の名前はヒロシであることは分かった。」
- 男
- そこはわかって、なぜ僕の名前がわからないんだ!
- 看護婦
- 「性癖はMであるが、Sだと誤解しており、大学時代のコンパでは
自分はドSだと吹聴していた。」
- 男
- だからなぜそれはわかる!
- 看護婦
- 「今まで付き合った人数を聞かれると、いつも三人くらい水増しして答える
クセがある。」最低ですね。
- 男
- 多い方がかっこいいじゃないか・・・!
- 看護婦
- 以上。
- 男
- ちくしょう、結局私はだれなんだ・・・!!
- ラジオの音が聞こえてくる。
- ラジオ
- 「次のニュースです。ユニバーサルスタジオジャパンのワンピースのショーで、
ルフィの役をやっていた、淀川区在住の桂良三郎さんは、以前行方不明です。
桂さんは一人暮らしの男性で、行方不明になる直前、同僚に、
「今、醤油を切らしてるんだ。帰りに買わないと。」と話していたそうです」
- 二人
- ・・・。
- 看護婦
- ルフィ・・・。
- 男、メモを出す。
- 男
- 「しょう・・・、わすれない」
- 二人
- 醤油、忘れない。
- ピアノ曲が響く。
- 終わり。