- ここは女の車の中。
- 女
- もうええって、お前。泣くなや、もう。
- 男
- ごめん。
- 女
- いや、謝らんでええけど。泣くなって。
- 男
- だって。
- 女
- どうせまたすぐ好きな人できたとか言い出すんやから。このくだり何回やんねん。
- 男
- もう恋なんてせえへんもん。
- 女
- 五万回聞いた、耳腐るわ。ばり恋するやんお前。
- 男
- あたし、なにがアカンのかなぁ。
- 女
- お前な、勇猛果敢すぎんねん。もうちょっとお前、同じ属性で恋せえや。
- 男
- そんなん、好きになってまうねんもん。
- 女
- わかるけどさ。だから俺はちゃんと、俺みたいなやつらのコミュニティで恋するようにしてるもん。
普通の女の子のことなんか好きになっても、あとで辛いだけやし。
- 男
- 好きになったら止められへんもん。
- 女
- だから好きにならんように、距離とっとくんやん。
- 男
- なんであいつらってあんな思わせぶりなん?
- 女
- それはわかるけど。
- 男
- 思わせぶりすぎひん? めっちゃ優しいし。
- 女
- あれちゃう? ペット可愛がるみたいなもんちゃうん?
- 男
- あたしペットでええのに。
- 女
- お前の性癖は知らんけど。
- 男
- あたしのなにがアカンと思う?
- 女
- だってお前は、ややこしいやんか。ヒゲ生えてる日あるし。そういうのが好きな人自体が、
そもそも少なくはあるわけやから。
- 男
- なんで?
- 女
- そこはしゃあないやろ。競技人口少ないマイナースポーツみたいなもんやん。
野球のスタジアムの中で、クリケット好きを探すんは大変やろ?
- 男
- でもクリケットって、インドではメジャーやで。
- 女
- せやから、インドで探したほうがええっていう話。
- 男
- 夜はインドで恋せよ乙女?
- 女
- 意味わからん黙れ。例えば、ほら、ヨッちゃんとこのバーとか。
- 男
- ちゃうやん。だからあたしは、ヨッちゃんとこのバーとかにけえへん、
爽やかなビジネスメガネが好きなんやんか。
- 女
- ほなもうちょいメイク頑張れや。
- 男
- やってるやんか!
- 女
- 完成度低いねん! お前んち鏡ないんか。
- 男
- そんなん、だってあたし、別にほんまの女になりたいわけちゃうもん。
- 女
- ほんまお前らってそういう逃げ方するよな。
- 男
- 逃げとかちゃうもん。
- 二人
- あたしはあたし、
- 女
- とか。
- 男
- むぅ。
- 女
- 俺は男になりたい。ちゃんと。ぜんぶ。
- 男
- 男に見えるで。
- 女
- でも好きにならんやろ?
- 男
- だって、あんたは、アレがないやんか。
- 女
- お前のんよこせや。使い道ないやんけ。
- 男
- アカンよ。使うよ。あたしはコレがついたままがいいの。
- 女
- あー。アレが欲しいなー! もー!(あるいは「アレが欲しいなー!」)
- 男
- あたしもー。
- 女
- お前の欲しいと俺の欲しいは、ぜんっぜん意味ちゃうからな。
- 男
- 超ごぶさたー。
- 女
- くっそ、その役に立たんモン寄こせ!
- 男
- あん、ちょっとやん、ひっぱらんとってよぉ!
- 女
- おら! あははは!
- 男
- ちょっと、やだ、アカン、ほんまにキュンとしてまうて。(地声)
- 女
- いや、怖。やめろやお前。ヒゲ生えてきてるやんけ。抜いたるわ。
- 男
- やーん!
- 女
- おら!
- 男
- いったーい! やーん! (クラクションが短くなる)あん、ごめん、当たった。
- 二人、笑う。
- END