ぼくの彼女はいつも音楽を聴いている。最近、バイトで貯めたお金で、
ワイヤレスの白いイヤフォンを買ったらしくって、とにかく、得意げだ。
コードがないんだよ。すごいと思わない?
どうかなあ、すぐ失くしそうじゃん。
あんたはね。あたしは絶対無くさない。ピアスみたいに大事にするんだから。
ピアスの穴は、高校生になってからすぐに開けたらしい。最初はうまくいかなくて、
両耳にばんそうこを貼ったまま、入学式に出たそうだ。ぼくは、そんな彼女を知らない。
朝起きたら、携帯の充電をチェックして、ご飯を食べて、制服に着替えて、イヤフォンをつけて、
靴をはいて、鍵をしめたら、音楽スタート!
一曲目は?
小沢健二のアルペジオ!3分42秒!
途中でしゃべるやつだよね。
それがいいの。ずんずん駅まで歩いて、ちょうど終わる頃に
改札抜けたら、つぎの曲?
うん。ごったがえすフォームに立って、鳴り始めるのは蓮沼フィルの、the misson!
イントロ超えて40秒あたりに、電車が到着。ドアがあく。
事故さえなかったら世界はシステマチックなんだよ。今朝なんてぴったりだったんだから。
一駅すぎて、二駅目の扉があくときに、
つぎの曲になる。
そう。初代ゴジラのメインテーマ。なりひびく低音とともに、現れる2年3組の上層部、
おしゃれ女子軍団! 朝からかわいい!すんごい迫力!そして、そのつぎの駅で、
ぼくが乗りこむ。
うん!
いったいなんの曲がかかるの。
言わない!
なんで!
うるさい!さあ、つぎの駅は、あたしたちの学校のすぐ近くよ。電車がつく。
僕らはおりる。
ぴったりのタイミングで、つぎの曲が始まる!
つぎの曲はなに?
はい!
と、彼女は片方のイヤフォンを渡してくれる。流れてくるのは。
音楽が始まる。くるり/言葉はさんかく、こころは四角 etc?
おはよー。おはよー。とクラスメイトが通り過ぎてく。片方の耳でぼくらはちゃんと返事する。
なるほど、ワイヤレスっていいかもしれない。僕ら、少し離れて歩いても、
ちゃんと音楽は続くんだ。
じゃ。
と僕らは別々の教室へ。
なくさないでよ!
と彼女は言う。耳から外したイヤフォンを、ぎゅっとにぎって、なくさないよと
ぼくは答えるんだ。
おわり。