- ――雨の日。
- 男
- あれ。なにしてるの?
- 女
- 雨が降ってる
- 男
- そうだね
- 女
- 私、傘、持って来てなくて。雨、止むまで待とうと思って
- 男
- 止むかな
- 女
- ううん
- 男
- 貸そうか?
- 女
- いや、いいよ
- 男
- 僕、駅まで走るから、傘、使ってよ
- 女
- 本当にいい
- 男
- そっか
- ――間。
- 女
- なんだ。私、嫌われてるのかと思った
- 男
- なんでそう思うの? そう思われるような態度とってたかな?
- 女
- 傘、借りてくれなかったから
- 男
- 傘?
- 女
- うん、この前の雨の日
- 男
- あー。そうだっけ
- 女
- せっかく貸してあげるって言ったのに
- 男
- でも、借りられないよ
- 女
- どうして?
- 男
- もしかして、別にもう一つ持ってたの? 折り畳みとか
- 女
- ううん。あれしか持ってなかった
- 男
- じゃあ、借りなくてよかった
- 女
- あれからどうしたの?
- 男
- あれからって?
- 女
- 私がふて腐れて帰ったあと
- 男
- もう少し待ってみたけど、それでも止まなかったから駅まで走った
- 女
- 濡れた、よね?
- 男
- そりゃ濡れたよ。ずぶ濡れになった。笑っちゃうくらい
- 女
- 可哀想
- 男
- え?
- 女
- 濡れたの可哀想。風邪とかひいてない?
- 男
- うん。大丈夫。ありがとう
- 女
- あの日、かっこつけないで私から傘借りてくれたらよかったのに
- 男
- え。かっこつけてないよ。もし、僕が君の傘を借りて帰ったら、
君が濡れることになってたんだよ
- 女
- いいの、私は
- 男
- よくないよ
- 女
- あの日、ずぶ濡れになって帰って、風邪ひいて、私はあなたから心配されたかった。
もし、そうなってたら私のこと心配してくれてたでしょ?
- 男
- 当然、そうだね
- 女
- あなたのせいで風邪ひいたんだし
- 男
- 僕のせい?
- 女
- あなたのせいでしょう。あなたが私の傘を持って行っちゃったんだからね
- 男
- よかった
- 女
- なにが?
- 男
- 実際は、傘を借りてもないし、風邪もひいてない
- 女
- よくないよ
- 男
- 風邪ひいてないのに
- 女
- 本当ならもっともっと私のことを考えてもらえていたのに
- 男
- どういうこと?
- 女
- あなたに傘を貸して、ずぶ濡れになって、あなたのせいで風邪をひいていたら、
あなたにもっと私のことを考えてもらえていたのに
- 男
- 考えてるさ
- 女
- え?
- 男
- うん。ずっと君のことばかり考えてる
- 女
- そっか。そうなんだ。じゃあ、あの日、一緒に帰ったらよかったね。私の傘に二人で入って
- 男
- その手があったか
- 女
- そうだよ
- 男
- そうしたらよかった
- 女
- 私もあのときに思い付いていればよかった
- 男
- じゃあ、そうする?
- 女
- なに?
- 男
- 今から
- 女
- 私、雨、止むまで待つから
- 男
- 止みそうにないよ
- 女
- でも、私傘もってないし
- 男
- 僕が持ってる。もし、嫌じゃなかったら、僕の傘に二人で入って、二人で帰ろう
- 女
- じゃあ、うん
- ――終わり。