- 冬の夜。男女がコンビニを出て歩いている。街頭。通り過ぎる車。
- 男1
- (コンビニの袋から珈琲を取り出して)はい、これ
- 女1
- ありがとうございます
- 男1
- それにしても寒いね
- 女1
- そうですね
- 男1
- あのさ、なんとなくここまで来たけど大丈夫?
- 女1
- 私も帰りこっちなので
- 男1
- そっか
- 女1
- なんか気を遣わせてしまってますか?
- 男1
- いや、気にしなくていいよ
- 女1
- (間)あの1つ聞いてもいいですか?
- 男1
- なに?
- 女1
- それは、自分で、飲むんですか?
- 男1
- え?
- 女1
- コンビニでロング缶買われてたじゃないですか。お酒、呑まないって聞いてたので
- 男1
- あ
- 女1
- 会社の集まりでは呑まないことにしてるんですか?
- 男1
- いや、酒は本当にダメなんだけど
- 女1
- そうなんですね
- 男1
- そうなんです
- 女1
- あの、私、変なこと聞いてますか?
- 男1
- いや、これは、その、よく飲むやつがいてさ。
買ってきて?って頼まれるから。それで、つい。
- 女1
- なるほど
- 男1
- あの、このこと会社の人には秘密にしてもらえるかな?
- 女1
- モチロンです
- 男1
- ごめん。なんか微妙な感じにしちゃってる?
- 女1
- そんなことないですよ。でも、なんかいいですね。そういうのって
- 男1
- そうかな?
- 女1
- どんな人なんですか?
- 男1
- んー、まず、酒飲みだね
- 女1
- それは、知ってます笑
- 男1
- あ、そっか。あとは、なんだろうな
- 女1
- 誰かに似てるとか
- 男1
- 誰かねえ
- 女1
- 動物でもいいですよ
- 男1
- 動物?動物でいうと、熊?
- 女1
- プーさんみたいな感じですか?
- 男1
- いや、そんな可愛い感じじゃないな
- 女1
- 酒好きのプーさん
- 男1
- それガラ悪くない? 冬になるとよく寝るから熊っぽいと言うか
- 女1
- 冬眠ですか?
- 男1
- まあ、ほとんどそんな感じかな
- 女1
- 冬眠してる間寂しくないですか
- 男1
- そんなこともないよ。そのうち腹をすかして起きてくるってわかってるからね
- 女1
- すごい熊っぽいですね
- 男1
- それで起きてこなくてもいいんだけどね…
- (自転車が近づいてくる。チリンチリンと音がする。男2が登場)
- 男2
- (男1に)あ、おかえり。早かったね
- 女1
- え?
- 男2
- (女1の存在に気が付いて)え? あ、こんばんは
- 女1
- …こんばんは
- 男1
- あー…
- 男2
- え?あ、すいません、人違いでした。さようなら。
- (男2、退場)
- 女1
- え?ええ? 行っちゃいましたけど、あの、誰だったんでしょうか?
- 男1
- いや、なんか知らない人にいきなり話しかけられたね、大丈夫だった?
- 女1
- え?あの、知り合いでしたよね?
- 男1
- え、知らないよ?あのさ、寒いしもう行こっか
- 女1
- あの、もしかして今のが熊さんですか?
- 男1
- 熊?
- 女1
- あの、もしそうだとするなら、私はすごくいいと思いますよ
- 男1
- え?
- 女1
- すごく、すごくいいなと思います
- 男1
- (間)え、うん。そっか。…ありがとう
- 女1
- じゃあ、もう帰りましょうか
- 男1
- あ、うん