- 夜遅くに。玄関のドアが開く音。仕事終わりの子供が実家に帰ってきた。
 かなり疲れた様子。
- 子
- ただいま~。
- 母
- お帰り。
- 子
- あぁ、疲れたー。
- 缶ビールの開ける音。
- 母
- お腹は?ご飯食べる?
- 子
- ちょっと食べよかなー。いや、もう寝よ。
- 母
- 寝よ言うて、プシュって開けてるやん。
- 子
- これ飲んだら寝る。自分へのご褒美~。
- 母
- もう、飲み過ぎたらあかんよ。
- 子
- お母さんも飲む。
- 母
- え?お母さんも?もう寝よかなと思ってたとこやのに。
- 子
- 飲むかなーと思って、もう一本買ってきてん。
- 母
- あら、ちゃっかりと。買ってきてるんやったら、しゃーないなー笑。
 じゃ、ちょっとだけ付き合おか。
- 缶ビールの開ける音。
- 子
- はい、どうぞ。
- 母
- ありがと。これ飲んだら寝ぇや。
- 母子
- 乾杯~♪
- ビールを飲む。
- 母子
- あぁー美味い!笑
- 子
- やっと週末や。今週も忙しかった~。
 もうちょっと周りに仕事振っていかなまわらへん。
- 母
- 無理したらあかんよ。
- 子
- もう無理せな間に合わへん。あ、メール送っとかな、いや、もう、仕事終わり!
 週明け週明け!
- 母
- そうそう、もう帰ってきてんから。
- 子
- はぁ~。やっぱり実家は落ち着くなー。帰ってきたらホッとする。
- 母
- お疲れさん。
- 子
- お母さん…
- 母
- うん?
- 子
- やっぱやめとこ。
- 母
- 何よ?
- 子
- 言うのこっぱずかしいな。
- 母
- 何それ、何かあったん?
- 子
- 言うたら調子乗るもんなー。
- 母
- 誰が調子乗るん?何?何?言うてごらん。
- 子
- やっぱ凄いわ。
- 母
- え?
- 子
- お母さん、凄いわ。
- 母
- 凄いよ。どうしたん急に。
- 子
- かなわんな。
- 母
- 当たり前やん。お母さんに勝てるわけないやん。
- 子
- お母さんがな、この家におらんと、火が消えたみたいに静か過ぎるねん。
 帰ってきたらおるのが当たり前で、おかえりって言うてくれて、
 何食べる?って聞いてくれて。
- 子
- 駅着いて、そこのコンビニ寄ってな、お母さんのビールも忘れんと買ってん。
 ちょっとだけやで、しゃーないなー言うて付き合ってくれるやろうと思って。
- 子
- もう1年。早いな。まだ全然実感ないわ。
- 子
- 家の中もだいぶ頑張って片付けたんやで。
 でもまだまだ気持ちもな、そんな気になれへんで。あかんあかん。
 仕事落ち着いたら、もうちょっと帰ってくるようにするよ。
- 子
- 今夜はもうちょい付き合って。乾杯~。
- 窓から見える夜空。ぽっかりとお月さんが浮かんでる。
- 完