いやー、いいもんだったな。勇者様と姫様の結婚式。
ねー、ほんと、素敵だった。
魔王を討伐した勇者様の帰還。いやあ、カッコよかったなー。
お姫様も、すっごいキレイだった。
これで、やっとこの村にも平和が訪れたな。
ほんと、洗濯物も魔物に汚されずに済むわ。
勇者様と姫様も、これからは末永く幸せに暮らして欲しいもんだ。
はぁーあ。
なんだよ、その溜め息は。
ん? 勇者様、カッコよかったなーって。
そうだな。やっぱり、体つきからして、勇者って感じだったな。
それに比べて……。
ん?
あんたさ、最近、太ったんじゃない?
いやいやいや、勇者様と比べてどうするんだよ。
別に勇者みたいになれとは言わないけどさ。
そんなこといったら、お前だって姫様とはえらい違いだぞ?
お姫様と比べないでよ。
お前が勇者様と比べたんだろう。
だから、あんたも少しくらい身体を鍛えなさいよ。
鍛えたところでお前、勇者様みたいにはなれないだろう。
勇者みたいになれなんて言ってないわよ。
言ってるだろ。
少しくらいって言ってるでしょ、話を聞きなさいよバカ。
お前だって、じゃあ、その言葉遣いやめろよ。姫様の気品を見習えよ。
こういうのは生まれ育った環境でしょう。仕方ないじゃない。
大体お前、俺が勇者様みたいになってみろ。恥ずかしいのはお前だぞ?
なによ。
そんなお前、お前の見た目と話し方で。勇者様の隣にいられるわけないだろう。
そんなのお互い様じゃないの。あたしがお姫様だったらあんたなんか分不相応よ。
そういうのは姫様みたいになってから言えよ。
こっちの台詞だし。バカじゃないの。
女、ゴキブリを発見する。
ぎゃあ! うわぁ! ゴキブリ!
えっ。
ゴキブリ、ゴキブリ! ちょっとあんた、新聞紙!
お、おう。お前な、その驚き方もな、
早くしてよ。
お前な、その驚き方もな、姫様とは程遠いぞ。
いいから、退治して! 気持ち悪い! はい、勇者! ほれ!
ったく、ゴキブリくらいで……。
早くしてよ。なんなのよ、そのへっぴり腰。
へっぴり、バカ、間合いをはかってるんだよ。姫は黙って見てろ。
ゴキブリ一匹でなにが間合いよ。早くしてよ。はい、ほら! 早く! バシッと!
お前な、勇者の魔王討伐にお前みたいなやつがいたら、もう作戦が…、
どこが魔王よ、ゴキブリじゃないの!
そのゴキブリに飛びのいたのはお前だろ。
あんただってビビってるじゃないの! がんばれよ勇者!
ちょ、姫、うるさい! お前、あっち行って、ちょっと、魔法の準備をしとけ!
魔法?
あの、洗濯機の横にあったろ。あの、魔法の。緑色の、魔法の。
スプレーのこと?
そう、あの、緑色の、魔法のスプレーを準備しておけ!
なんでお姫様がパーティーに組み込まれてんのよ。
そういうシリーズもあるだろう!
いいから早くしてよ!
やるぞ…。
男、新聞紙でゴキブリを叩く。が、外す。
ああ、外した! まずい!
いやー! もう! やだ! なんなのよ、一撃で仕留めろよ、勇者!
おい、喋ってないで、はやく緑色の魔法を持って来いよ!
ああ、もう一般家庭すぎる!
それも幸せだって二十年後に気づくから、今はまず殺虫剤をくれ!
END