●深夜のとあるビル内

カチャカチャと清掃用具の金具が当たる音だけが響く、深夜のビル内。夜間清掃のアルバイトの男(清掃男)は薄暗い廊下に、女性の影を見つける
清掃男
え?…ええっ!何?!何でここにいんの??!
突破女
今日、このビルの清掃だって言ってたじゃん
清掃男
確かに言ったけど。だからって何で?こんな時間に?終電だってもう無いし…って、
入り口のセキュリティどうしたの?!
突破女
フツーに
清掃男
フツーにって、え?入って来ちゃったの?セキュリティ突破して?!いやいやいやいや、
ヤバいよ!警備会社に連絡いってるよね、監視カメラにも映ってるよね。
うわぁ、めっちゃくちゃ怒られるよ、嘘でしょ!
突破女
見られちゃマズいの?
清掃男
そりゃマズいでしょ!
突破女
そんなに嫌なんだ、私と一緒なの
清掃男
へ?いや、そういう事じゃなくて、今の状況がマズイって事で
突破女
今の状況だから言ってるの。おかしいでしょ?こんなの。
なんでオープンにしちゃいけないの?私たち。何かやましい事でもあんの?
清掃男
あの、それって今話さなきゃなんない?とりあえず、今、目の前の最悪な状況についてを
何とかしたいんだけど
突破女
天秤にかけた上、そっちに傾くわけ?
清掃男
そうじゃなくて
突破女
こういう状況からのスタートがあってもいいじゃない
清掃男
監視カメラに見守られながらのスタートって、おかしいでしょ
突破女
そうやってまた先延ばしするつもり
清掃男
いや、それはちゃんとするつもりなんだって
突破女
じゃ、いつやるの?
清掃男
え?…今でしょ?
突破女
フザケてる?
清掃男
フザケてないっ!ほんとちょっと待って、キレイにしたら!ね?キレイになったら
突破女
仕事終わるまで待てって事?
清掃男
そうじゃなくて。何て言えばいいのかな。身も心も、全てキレイにしてからじゃないと
ダメな気がしてて
突破女
どういう事?
清掃男
オレなんてさ、いろいろ汚れとか垢とか付いちゃってるじゃん。いい歳なんだし。
だから、全てキレイな状態にして、堂々と宣言したいと思ってて
突破女
え?…それって、そういう事?
清掃男
ちゃんと捉えてくれてれば、そういう事かと
突破女
ほんとに?
清掃男
ほんとに
突破女
じゃあ、本当に私のこと考えてくれてたって事?
清掃男
もちろん!だからこんなバイトまでしてんだよ
突破女
そっかそっか…。ん?バイト?清掃バイトの何が関係あんの??
清掃男
いや、だから、全部キレイになる感じするじゃない
突破女
は?
清掃男
汚れた自分もリフレッシュ!みたいな
突破女
何、その安直な発想!
清掃男
えぇ!ダメ?!
突破女
ゴリゴリ形から入るタイプね
清掃男
そうか、ダメなのか
突破女
もう…けど分かった。考えててくれたのは間違いんだもんね。うん、ありがと
清掃男
いや、何かゴメン
突破女
よし。じゃ、宣言するわよ
清掃男
え?
突破女
ほら、カメラに向かって
清掃男
え?いや、でも
突破女
どうせ首になるんでしょ!いくわよ、せーの、
突破女
清掃男
(清掃男は突破女に合わせるように)私たちは堂々交際宣言します!
突破女
はぁ~、スッキリした!!!
清掃男
これ、監視カメラだから、音声届いてないと思うけど
突破女
形式上そうなってればいいの
清掃男
自分だって形じゃん…
おしまい