- ・鍋島先生―越境小学校3年3組の担任。男。
 ・軽井先生―同小学校6年2組の担任。女。
 
 ここは埼玉県にある越境小学校。この小学校を卒業した子供たちは、
 近くにある逆境中学校にだいたい入学することになっている。
 夕暮れ。学校のチャイムの音がなっている。
 理科準備室に鍋島先生がいる。軽井先生が入ってくる。
- 鍋島
- あ。
- 軽井
- どうも。
- 鍋島
- すいません、お呼び立てして。
- 軽井
- いえ。ちょうどテストの採点に飽きたところでしたから。
- 鍋島
- それは、つらいなあ。
- 軽井
- あまりにめんどくさいんで、全員100点か0点にしてやろうかと思います。
- 鍋島
- 休んだ方がいいですよ。
- 軽井
- 肩もこってるし。
- 鍋島
- もみましょう。
- 軽井
- ありがとうございます。・・・あっ、やめてください!そこは肩では・・・ああっ、ああっ!
- 鍋島
- 肩ですよ!誤解されるような声出さないでください。いくらラジオドラマで見えないからと言って。
- 軽井
- すいません、つい。ストレスが溜まって・・・。
- 鍋島
- おそろしい人だ。だがそこがたまらない・・・。
- チャイムの音。
- 鍋島
- そろそろ返事をいただけませんか?
- 軽井
- ・・・。
- 鍋島
- 僕はもう、三年待ちました。その間に僕は30になり、あなたも30になった。
- 軽井
- ・・・。
- 鍋島
- お互いいい歳です。僕に決めたらどうですか。
- 軽井
- ・・・。
- 鍋島
- 軽井先生!
- 軽井
- あ、すいません、寝てました。
- 鍋島
- 寝てたのかよ!!・・・やめましょう。このラジオドラマは三分しかないんです。
- 軽井
- そうですね、急がねば・・・。では、申し上げます。
- 鍋島
- はい。
- 軽井
- 確かに、鍋島先生は結婚相手として悪くはないんです。収入もまあ、最低ラインはあるし、外見だってまあなんとか。性格も鼻につくところはありますが、ギリギリ耐えられる。
- 鍋島
- そこそこ僕は傷ついてるわけですが、だったら、
- 軽井
- でもなー、決定打がないんだよなー。
- 鍋島
- 決定打?
- 軽井
- ほんとすいません、本人の前でいうことじゃないんだけど、あなた、これってのがないんだわ。だから私も三年も返事できないでいたんですよ!
- 鍋島
- すいません。
- 軽井
- 私だってね、正直結婚したいんです。親からの突き上げもあるし。でもね、
 一生で一度の結婚、妥協したらかわいそうじゃないですか、私が。ほんのわずかでもいい。
 鍋島先生のこといいなと思って結婚したい。でもそのちょっとが今全くない。
- 鍋島
- 僕の心の傷がどんどん深まるわけですが・・・。わかりました!
 僕のいいところをみせてやりますよ!
- 軽井
- お願いします!
- 鍋島
- 実は僕、マジックができるんです。ほら、ここに一枚のカードが・・・。
- 軽井
- 私、マジックはピンとこないな。
- 鍋島
- やめようね。じゃあ、踊ります!!♪ヘヘイ、ヘイ♪
- 軽井
- (叫び)ダサイ!!
- 鍋島
- ・・・お手上げだ・・・!
- 軽井
- えっ。ほかにないんですか、いいところ!
- 鍋島
- ない・・・!
- 軽井
- そんな・・・!結婚したいのに・・・!
- 鍋島
- 僕だって・・・!
- 軽井
- なんかあるでしょう、30年生きてて、マジックとダンスだけって・・・。
- 鍋島
- 俺はつまらない人間・・・!
- 軽井
- そんなことないよ、なんかあるって。歌がうまいとか、壁ドンがうまいとか。
- 鍋島
- 壁ドン?
- 軽井
- ちょっとやってみましょう。私、壁際にいきますから・・・。
 あ、なんかドキドキしてきたかも。
- 鍋島
- いきますよ。 
- 鍋島先生、壁ドンをする。間。
- 鍋島
- (耐えきれず、ちょっと笑ってしまう。)
- 軽井
- もー!!真顔でいてくれたら今いけそうだったのに。
- 鍋島
- 真顔、真顔・・・。
- 間。チャイムがなる。
- 軽井
- あ。・・・もう。
- 鍋島
- ・・・すいません。
- 軽井
- いいんですけど。・・・戻りましょうか、職員室。
- 鍋島
- はい。
- 軽井
- 今度、映画でも行きますか?
- 鍋島
- いつにします?!!!
- 終わり。