- 恋愛競争の開始の笛が鳴る。
男と女、交互に、あるいは同時に、「はい!」や「よし!」や「ほい!」などの
気合を入れるたぐいの短い声を発する。
以下、早口で慌てながら、時には相手の台詞に重なりながら続ける。
- 男
- 両想いになったらゴール。
- 女
- 両想いになったら。
- 男
- はい、よし、じゃあ、どうぞ。
- 女
- え、え。
- 男
- どうぞ、お願いします。
- 女
- はい、え。
- 男
- はい。
- 女
- え、どうしたらいいですか。
- 男
- どうぞ、はい。好きになってください。
- 女
- はい、え、あたしがですか。
- 男
- はい、どうぞ、お願いします。
- 女
- え、え、どうしよう。
- 男
- なんでも、はい、言ってくれたら。
- 女
- はい、えっと。
- 男
- 好きになりました?
- 女
- いや、でも、まだ会ったばかりですし。
- 男
- いやいや、早くしないと、ほら、もう両想いになってるチームも、
- 女
- わあ、ほんとだ。
- 男
- 好きになりました?
- 女
- いや、そんな、まだ。
- 男
- 早く両想いにならないと。
- 女
- え、あたしのことは、もう好きなんですか?
- 男
- え?
- 女
- あたしのことは、もう好きになってるんですか?
- 男
- 僕は、もう、はい。
- 女
- え?
- 男
- そういうのは、もう、はい。
- 女
- え、好きなんですか?
- 男
- はい。
- 女
- え、嘘ついてないですか?
- 男
- いやいやいや、だって、男側は、そういうのは。
- 女
- なんですか?
- 男
- それはもう、好きっちゃ好きの世界ですから。
- 女
- 好きっちゃ、
- 男
- いや、まあまあ可愛いので、それは、はい、大丈夫です。
- 女
- 大丈夫ですってなんですか?
- 男
- 大丈夫ですっていうか、
- 女
- 大丈夫ですってなんですか?
- 男
- え、そんな感じの性格ですか?
- 女
- はい?
- 男
- 性格がちょっと、そんな感じですか?
- 女
- どういう意味ですか?
- 男
- え、ちょっとヤバイ、両想いになりましょうよ。
- 女
- いや、まずあたしのことをちゃんと好きになってくださいよ。
- 男
- なってるじゃないですか。
- 女
- なってないじゃないですか。
- 男
- いやいや、え? 時間がないってわかってます?
- 女
- わかってますけど。
- 男
- ほら、もうキスしてるチームも! ヤバイ!
- 女
- あたしとキスしたいですか?
- 男
- だから僕はキスできますから。
- 女
- ちょ、マジ、キス「できます」って。
- 男
- だから、ちが、
- 女
- 「できます」ってなんなのそれマジで。
- 男
- なんっだよ、こまっけぇ。
- 女
- はぁ?
- 男
- こまけーよ、お前、なんだよ。
- 女
- こまかくないです。
- 男
- お前、ほかのチームみんな、ああもう、俺らビリじゃねーか。
- 試合終了の笛が鳴る。
- 女
- 終わった。あーあ。
- 男
- 負けちったよ。
- 女
- 帰ろ。
- 男
- え、帰んの?
- 女
- え?
- 男
- いや、せっかくチームになれたんだし、お茶でも行こうよ。 もうちょっとゆっくり、
ちゃんと、瞳さんのこと知りたいし。可愛いし。ほんとはキスしたいし。
- 女
- べ、別にいいけど。
- 男
- あ、お前なに、顔赤く、なんだよお前! おっせぇ、今更、なんだよお前!
- 女
- うるさいなぁ!
- END