恋愛競争の開始の笛が鳴る。
男と女、交互に、あるいは同時に、「はい!」や「よし!」や「ほい!」などの
気合を入れるたぐいの短い声を発する。
以下、早口で慌てながら、時には相手の台詞に重なりながら続ける。
両想いになったらゴール。
両想いになったら。
はい、よし、じゃあ、どうぞ。
え、え。
どうぞ、お願いします。
はい、え。
はい。
え、どうしたらいいですか。
どうぞ、はい。好きになってください。
はい、え、あたしがですか。
はい、どうぞ、お願いします。
え、え、どうしよう。
なんでも、はい、言ってくれたら。
はい、えっと。
好きになりました?
いや、でも、まだ会ったばかりですし。
いやいや、早くしないと、ほら、もう両想いになってるチームも、
わあ、ほんとだ。
好きになりました?
いや、そんな、まだ。
早く両想いにならないと。
え、あたしのことは、もう好きなんですか?
え?
あたしのことは、もう好きになってるんですか?
僕は、もう、はい。
え?
そういうのは、もう、はい。
え、好きなんですか?
はい。
え、嘘ついてないですか?
いやいやいや、だって、男側は、そういうのは。
なんですか?
それはもう、好きっちゃ好きの世界ですから。
好きっちゃ、
いや、まあまあ可愛いので、それは、はい、大丈夫です。
大丈夫ですってなんですか?
大丈夫ですっていうか、
大丈夫ですってなんですか?
え、そんな感じの性格ですか?
はい?
性格がちょっと、そんな感じですか?
どういう意味ですか?
え、ちょっとヤバイ、両想いになりましょうよ。
いや、まずあたしのことをちゃんと好きになってくださいよ。
なってるじゃないですか。
なってないじゃないですか。
いやいや、え? 時間がないってわかってます?
わかってますけど。
ほら、もうキスしてるチームも! ヤバイ!
あたしとキスしたいですか?
だから僕はキスできますから。
ちょ、マジ、キス「できます」って。
だから、ちが、
「できます」ってなんなのそれマジで。
なんっだよ、こまっけぇ。
はぁ?
こまけーよ、お前、なんだよ。
こまかくないです。
お前、ほかのチームみんな、ああもう、俺らビリじゃねーか。
試合終了の笛が鳴る。
終わった。あーあ。
負けちったよ。
帰ろ。
え、帰んの?
え?
いや、せっかくチームになれたんだし、お茶でも行こうよ。 もうちょっとゆっくり、
ちゃんと、瞳さんのこと知りたいし。可愛いし。ほんとはキスしたいし。
べ、別にいいけど。
あ、お前なに、顔赤く、なんだよお前! おっせぇ、今更、なんだよお前!
うるさいなぁ!
END