- 外国の少し前の映画の中のような、レンガ道が舞台。
 メグライアンのようなショートカットの女。
 天然パーマを引っ張ってぴっちり整えている生真面目そうな男。
- 女
- 枯葉が舞散る、レンガ作りの道。花屋の角を曲がったら、彼の待つ バス停がある。
- 車が通り過ぎていく。
- 女
- いた。彼だ。いつもの癖っ毛が、今日はぴったり整ってる。
- 男
- やあ!
- 女
- ごめんなさい、遅くなって
- 男
- とんでもない。時間ぴったりだ。あ! コーヒー、飲む? カフェオレがいいかな。
 それともブラック? さっきそこのカフェで買ったんだ。
- 女
- テイクアウト?
- 男
- そう、僕の右手がカフェオレで、左手がブラック。
- 女
- じゃあブラック。
- 男
- そう言うと思った。
- 女
- ありがとう。
- 男
- あー、
- 女
- ぬるい!
- 男
- そう言うと思った! そのー、張り切りすぎて。
- 女
- (笑う) そう、私たちは今日、初めてデートする。わたしの頭の中は、
 キスする予感でいっぱいだ。
- 音楽。
- 女
- 彼が好きそうなラフなスタイル。
- 男
- ちゃんと予約した話題の映画。
 ふたり 下調べしたレストラン。
- 女
- それから、予測不可能なキスの予感。
- ザーっと雨がくる。
- 男
- あ、雨!
- 女
- うそ!そんな予報だった?
- 男
- いや、今日はずっと晴れだったはずだよ! とにかく、あっちだ! 屋根の下!
- 女
- うん!
- 雨を跳ねて、走る足音。屋根の下にたどり着く。
- 男
- すごい。さっきまで晴れてたのに。
- 女
- みて! 雨で何も見えない!
- 男
- それにすごく明るい! これは、つまり、あれだ。
 ふたり ゲリラ豪雨!
- 雷がなる。
- 女
- わ! そういえば、ゲリラ豪雨って言葉、去年より使わなくなったね。
- 男
- 世界が「突然」に慣れたからかな。
- 女
- 私、まだ全然慣れないわ。
- 男
- 僕も。まいったな。映画のチケット、予約したのに。
- 女
- もしも、これがドラマだったら。よくある感じの昔のドラマだったら。
 突然の雨はラブシーンのはじまり。
 困った顔して空を見上げる彼の横顔。雨でぬれて、もどった癖っ髪。身動きできない二人。
 それから、予報を裏切る突然の雨。これからの世界がそんな雨に濡れるなら、
 これからも、きっと尽きない、キスの予感。あ。
- おしまい。