- 女
- イエーイ! ヒデオくん、お誕生日おめでとー!
- 男
- ありがとう。
- 女
- ねえねえ、なにが欲しい? なにが欲しい? なんでもしてあげるよ?
- 男
- なんでも?
- 女
- あ、エッチなのは駄目だからね?
- 男
- じゃあ、まゆみちゃん、お願いがあるんだけど。
- 女
- うん。
- 男
- 「二人だけの秘密だからね」って、言ってくれないかな。
- 女
- なにそれ?
- 男
- 少し照れた、恥ずかしそうな声で、「二人だけの秘密だからね」って、言ってくれないかな。
- 女
- あたしが言うの?
- 男
- うん。いいかな?
- 女
- 「二人だけの、秘密だからね」
- 男
- oh……。
- 女
- なに。こんなのでいいの?
- 男
- うん。ありがとう。
- 女
- 別に、こんなのでいいなら、いくらでも言ってあげるけど。
- 男
- 本当? なら、「あーあ、文化祭、終わっちゃうね」って、言ってくれないかな。
- 女
- 文化祭?
- 男
- 放課後、片づけをしながら、僕だけに聞こえる声で。
- 女
- 「あーあ、文化祭、終わっちゃうね」
- 男
- oh……。
- 女
- これでいいの?
- 男
- じゃあ、次は、「バッカみたい、鼻の下伸ばしちゃって」って、言ってくれないかな。
 少し嫉妬して、頬を膨らました様子で。
- 女
- 「バッカみたい、鼻の下伸ばしちゃって」
- 男
- oh……。
- 女
- ヒデオくん、何かをやり直そうとしてない?
- 男
- え?
- 女
- そりゃ、ヒデオくんがモテてこなかったのは知ってるけどさ。
- 男
- ごめん、注文が多すぎたかな。
- 女
- いや別に、言うくらいなら、いくらでも言ってあげるけど。
- 男
- じゃあ次は、「先輩のギター、もっと聞きたいです」って。
- 女
- ヒデオくん、ギターなんて弾けないのに?
- 男
- いいから。
- 女
- 「先輩のギター、もっと聞きたいです」
- 男
- 「ふーん、ヒデくん、まだ彼女できたことないんだー」って。
- 女
- ええ?
- 男
- 今度は女の先輩。金髪の。ちょっと大人な。
- 女
- 「ふーん、ヒデくん、まだ彼女できたことないんだー」
- 男
- 俺今、サッカーにしか興味ないんで。
- 女
- なに?
- 男
- いや。
- 女
- ヒデオくん、パソコン部でしょ?
- 男
- 「くそ、クイズに間違えたから天井が落ちてきた!」
- 女
- なに?
- 男
- 「俺が天井を支える! お前は、俺を置いて、先に行け!」
- 女
- え、どうしたらいい?
- 男
- いや、今のは僕が言いたくて。
- 女
- あ、そう。
- 男
- 「ねえ、今日ウチ、親いないんだ」って。
- 女
- ヒデオくん。
- 男
- 「二人とも遅くなるんだって、だから」って。
- 女
- ヒデオくん。
- 男
- それで僕の服の裾をギュッと握って。
- 女
- ヒデオくん、それはもうエッチだよ。
- 男
- だめ?
- 女
- だーめ。
- 男
- 誕生日なのに。
- 女
- あーあー、もう。そんなんだからいつまでも、恥ずかしくて紹介できないのよ。
 はやくしっかりしなさい。こんなことしてるなんて、二人だけの秘密だからね。
- 男
- あ、うん。
- 女
- 過去に聞けなかった妄想の台詞で鼻の下伸ばしちゃって。バッカみたい。
- 男
- おお。
- 女
- 今ここにいるあたしから、聞きたい言葉はないの?
- 男
- ……好きって言って。
- 女
- だめ。先に言いなさい。
- 男
- ああ…、好き。
- END