- 純喫茶「シャロン」の片隅。紅子と淳が腰かけている。
- 紅子
- 10年たってからまた私に挑戦してきて、ボーイ。
- 淳
- やっぱり僕じゃダメかあ。
- 紅子
- ふふ。あなたはまだ子供なだけ・・・。
- 淳
- 18はもう大人だと思うんだけどなア。
- 紅子
- ふふふ。そういうところが、子供なのよ。
- 淳
- そっか。
- 紅子
- ケーキを頼みましょうか。(指を鳴らす)なにになさる?
- 淳
- じゃあ、ショートケーキ。
- 紅子
- やっぱり子供ね。
- 淳
- あっれえ?じゃあ紅子さんは何を頼むんですか?
- 紅子
- いい女は、ニューヨークチーズケーキを頼むものよ。
- 淳
- うわあ。メモしておかなくちゃ。心のメモ帳に。
- 紅子
- ふふ。
- 淳
- ニューヨークチーズケーキってどんなチーズケーキなんですか?
- 紅子
- 知らないわ。
- 淳
- ええっ。
- 紅子
- いい女はね、どんなものかわからなくとも、その中で一番おしゃれなものを選ぶものよ。
- 淳
- そうだったのか。
- おしゃれな間。
- 淳
- (溜息)素敵だなあ、紅子さんは。いつか大人の男になってあなたを迎えに来ます。
 いや、奪いにきます。
- 紅子
- まあ。楽しみ。
- 淳
- 今は、まだ子供だけど。
- 紅子
- そう、あなたはまだ何も知らない。ポケットに綿棒を入れたまま、
 洗濯機にかけたらどんなことになるかも知らない・・・。
- 淳
- えっ。どうなるんですか?
- 紅子
- 綿の部分がね、ぶわーっと広がってね、そりゃもう、タンポポの綿毛みたいになるのよ。
- 淳
- へええ。
- 紅子
- 人生に飽きたら一度やってみるといいわ。
- 淳
- ああ。ほかに、大人の男になるためにやっておくべきことはありますか?
- 紅子
- そうね・・・。大人の男は挫折を知っているわ。
- 淳
- 挫折。まだ知らないなア。
- 紅子
- お気の毒さま。
- 淳
- もう。
- 紅子
- 私がかつて愛した男は、一度たこ焼き屋を始めたけれど、すぐ潰れたわ。
 でもその一か月後にはお好み焼き屋を始めたわ。そしてすぐ潰れた・・・。
 そしてそのあとイカ焼き屋を・・・。
- 淳
- 粉ものばっかりだ。彼はその後どうなったんですか?
- 紅子
- 「スペインで本物のやきそばをやる」と言って私から二万借りて去っていったわ・・・。
- 淳
- そうでしたか・・・。
- 紅子
- あと、大人の男は常に戦っているわ。
- 淳
- それは間違いない。
- 紅子
- はたちのころ、将来を誓った男がいたの。でも彼はあるとき、
 「フランス外人部隊に入る」と言って、私から二万借りて去っていったわ・・・。
- 淳
- ・・・紅子さん、騙されてませんか。
- 紅子
- いいえ。彼はちゃんと返す約束をしてくれたわ。
- 淳
- それはよかった。
- 紅子
- 月々100円の、200回払いで。
- 淳
- 紅子さん、紅子さあん!! 
- 紅子
- あと、大人の男は本物の恋をするわ。
- 淳
- これは、たまらない。
- 紅子
- 私が五年前愛した男は、決してかなわない恋をしていたの。
- 淳
- 一体どんな恋を? 
- 紅子
- 彼は・・・映像の中にしか存在しない女性を愛していたの。
- 淳
- 映像?
- 紅子
- 彼は私を綾波と呼び、自分を碇くんと呼ばせたわ。
- 淳
- それって・・・
- 紅子
- そして東京で開かれるコミケに行くといって、私から二万借りて去っていったわ・・。
- 淳
- 紅子さん。僕にしといた方がいいと思うんですよ。
- 紅子
- あなたは子供。それから、大人の男は・・・
- 淳
- 紅子さん、目を覚まして!!そんなとこも含めて好きですけどね!!
- 終わり。