- 女の悲鳴。殺人事件が起きた。パトカーがやってくる。
事件現場の寝室に刑事と家政婦と料理長の後藤。
- 刑事
- 後藤さん。現場はまだ何もいじっていませんね
- 後藤
- はい
- 刑事
- 第一発見者は家政婦の、あなたですね?
- 女
- …(寝息)
- 刑事
- あの、
- 女
- (スグ起きる)すみません。少し寝不足でして
- 刑事
- あなたがこの部屋へやってきた時既に被害者は殺されていた
- 女
- (死体に気づく)奥様!…死んでるっ!刑事さん!死んでますよコレ!
- 刑事
- ええ、落ち着いて。あなたが第一発見者です
- 女
- え。やったぁ。…夢かと思ってたのになぁー
- 刑事
- 凶器は包丁のような物。犯行時刻は一時間程前。その時、お二人はどちらに?
- 後藤
- 私は厨房に。包丁を取りに行っていました
- 刑事
- なるほど。あなたは、おい家政婦!
- 女
- (スグ起きる)すみません寝不足で…奥さま!死んでる!刑事さん警察を呼んでください!
- 刑事
- 刑事は警察ですよ。あなたは何をしていたんですか?
- 女
- 寝ていました
- 刑事
- 今寝てたのは知ってます一時間前は何をしていたんですか
- 女
- 寝ていました
- 後藤
- 彼女はここで寝ていました
- 刑事
- この部屋で?隣のベッドでは殺人が起きているのに?
- 女
- うわぁ、このシミ落ちるかなぁ
- 後藤
- 彼女全然気づかなかったみたいです。刺した途端、奥様かなり暴れて、血が彼女にもかかったんですがね、彼女は起きませんでしたよ。あ、血は目覚める前に丁寧に落としたんですが、その時もぐっすりでした。よっぽど眠かったんですねぇははは
- 女
- え!ありがとうございます!
- 刑事
- そして、あなたは目が覚め、すぐに奥さんが死体になってベッドの上、で寝るな!
- 女
- (スグ起きる)…奥様!死んでるっ!後藤さん!
- 後藤
- 彼女の悲鳴が聞こえた時、私は殺害に使った包丁を拭いていました
- 刑事
- なるほど
- 女
- 犯人は誰なんでしょうか
- 刑事
- わかりました
- 後藤
- ほんとうですか
- 刑事
- 犯人はこの中にいます
- 後藤
- そんな!
- 刑事
- その人は、(女寝ている)…その人、一度しか言いません、犯人は、犯人、起きろ家政婦!
- 女
- (寝言)うん
- 刑事
- もう寝かしときましょう。彼女は関係ありませんから。何故なら犯人は、
- 女
- (寝言)後藤さん
- 刑事
- そう、料理長の後藤さん、てお前が言うな!
- 女
- (寝言)奥様を殺害した後藤さんは、あたしに飛んだ血をふき取り、包丁の血を拭いた後……猫、シャワーを浴びて、血を落として……飛んだ
- 刑事
- (寝言と同時に)奥さんを殺害した後藤さんは、家政婦にうん。(とかなんとか適当に相槌を打つ)
- 後藤
- その通りです
- 刑事
- あ、じゃあ、逮捕します
- 後藤
- 彼女はそのまま寝かしてやってください。寝不足なんですよ
- 手錠がかけられ、彼は連れて行かれる。
扉が閉まり、夜を告げる時計の鐘。
- 女
- (目が覚める)はっ!奥様が、あれ
- 刑事
- 死体は引き取ったよ
- 女
- 事件は解決したんですか
- 刑事
- 俺も次の現場にいかなきゃな
- 女
- え、でも深夜の三時ですよ。ちょっとは眠らなきゃ身体壊しますよ
- 刑事
- …俺は眠らない男なんだ
- 後藤N
- かくして、『眠る女』と『眠らない男』は出会った。つづく
- 終わり。