- 女、車を運転している。初めての運転である。
- 女
- ふううううう、ふううう。
- 男
- みゆきちゃん、大丈夫? 僕がナビしてあげるからね。
- 女
- 大丈夫。ちょっと今、集中してるから、話しかけないで。
- 男
- わかった。安全運転で行こうね。だけど、ここは道も広いし、大丈夫だよ。
- 女
- わかってる。安全運転で、ドライブするから。ふううう。
- 男
- みゆきちゃんの車で、ドライブデートできる日が来るなんて、夢みたいだよ。
- 女
- 今そういうこと言わないで。集中してるから。
- 男
- ごめんね。
- 女
- 左右の安全を確認しておいて。
- 男
- そうだよね。初めての公道走行だもんね。心配しないで。僕がついてるから。
- 女
- おう。
- 男
- みゆきちゃんのことは、僕が守るよ。
- 女
- ちょっとごめん、今ほんと集中してるから。
- 男
- ごめんね。
- 女
- 左右の確認はできてるの?
- 男
- 大丈夫だよ。ここは道も広いし。
- 女
- こっちは、耕平くんの命を預かってるわけだから、真剣なの。
- 男
- うん。真剣にハンドルを握るみゆきちゃんの横顔、素敵だ。
- 女
- 余計なこと言わないで!
- 男
- ごめんね。
- 女
- 今それどころじゃないから。集中をかき乱すようなことを言わないで。
- 男
- あ、赤信号だ。ここを右に曲がろうね。
- 女
- わかってるから。見たらわかるから。
- 男
- うん。
- 車、一時停止。ウインカーの音。
- 女
- クソッ、ピクニック広場はまだか!
- 男
- みゆきちゃん、落ち着いて行こうね。
- 女
- おう、すまん。
- 男
- 今日はね、サンドイッチを作ってきたんだ。
- 女
- おう、そうか。
- 男
- 着いたら二人で食べようね。
- 女
- よし、青信号だ。黙ってろ。
- 男
- みゆきちゃんは、ハンドルを握ると性格が変わるタイプなんだね。
- 女
- 黙ってろ。
- 車、走り出す。
- 女
- ふうううう。ちくしょう。景色が、教習所と違いすぎるぜ。
- 男
- 僕、みゆきちゃんのこと、本当に好きだなぁ。
- 急ブレーキ。
- 男
- わわっ。
- 女
- コラァ、クソガキ、余計なこと言うんじゃねえよ!
- 男
- ごめんね。
- 女
- ああ、もう、ちくしょう。助手席に好きな人がいるパターンの実走訓練なんて、
 こっちはやってねえんだわ! こんなことなら事前に教官と恋に落ちとけば良かったわ!
- 男
- みゆきちゃんが教官と恋に落ちたら、僕、悲しいよ。
- 女
- わかってんだよ、そんなことは。誰のために免許取ったと思ってんだ。
 テメェと色んなところに行きたいんだろうが。テメェといろんな景色を見たいんだろうが。
- 男
- 僕もだよ、みゆきちゃん。行こう、ピクニック広場。着いたら、
 みゆきちゃんに伝えたいことがあるんだ。
- 女
- あん?
- 男
- 僕たち、二人の未来について、大切な話があるんだ。
- 女
- ……おう。
- 車、走り出す。
- 男
- みゆきちゃん、結婚しようね。
- 女
- ぬわー!
- 車、何かに衝突。
- 男
- あっ!
- 女
- ゴラァ、テメェ! 到着してからプロポーズしろや!
- 音楽。以下、フェードアウトするように、台詞。
- 男
- みゆきちゃん、ポールが折れちゃったよ!
- 女
- 大丈夫かテメェ、ケガはねぇのか、ゴラァ!
- 男
- みゆきちゃん、ミラーポールが折れちゃった! 
- 女
- ミラーポールどうでもいい! 大丈夫か耕平、ごめんなマジで!
- 男
- 見て、エアバッグがお餅みたい!
- 女
- テメェのそういう可愛いところ、大好きだ!
- END