- 女
- ほら。現れた。いつもの椅子に座ってる。オバケのきみである。
- オバケ
- おはようございます。でて、きちゃいました。
- 女
- 照れ笑いするオバケのきみ。彼が現れてから、もうじき一ヶ月たつ。
- オバケ
- 今日もお仕事ですか。
- 女
- うん。
- オバケ
- 日曜日ですよ。
- 女
- カフェの仕事は土日がメインなの。
- オバケ
- はァ。ぼくったら呑気な身分だなあ。
- 女
- だって、オバケじゃない。
- オバケ
- そう、オバケなんです。
- 女
- オバケのきみには、化けて出てくること以外にも、もう一つ、できることがある。
- オバケ
- あ、後ろ。髪の毛跳ねてる。
- 女
- えっ。もー。すぐに跳ねる。
- オバケ
- 僕の出番ですね。
- 女
- オバケのきみのできること。それは、跳ねた髪の毛を直すこと。
- オバケ
- はい、じっとして。
- 女
- はい。
- オバケ
- ヴうううううう。
- 女
- きた。両手をかざしてゴーストパワー!
- オバケ
- ぬぉぉぉぉぉぉ(頑張っている)
- 女
- 始まった! 顔が青くなって、白目になって、ほほがこけて、まるで悪霊!
- オバケ
- こっちをみちゃだめだぁぅおおおー!!(結構頑張っている)
- 女
- はいっ! と、言いながら、こっそり鏡越しに見る。
- オバケ
- うぬおおおおおおおおぅぅぅ!
- 女
- うひゃー、私の後ろに悪霊がいる! 悪霊が頑張って、私の跳ねた髪の毛直してくれてる!
とっても親切!
- オバケ
- ふひゃおおおぅ。ふぅー。
- 女
- あ、終わったみたい。
- オバケ
- 触ってみてください。
- 女
- 直ってる! ありがとう!
- オバケ
- よかった。
- 女
- 私、彼に恋してる。
- オバケ
- え?
- 女
- あ! 体が薄くなってる!
- オバケ
- ああ。今日の跳ねは手強かったから。
- 女
- 生命力を使いすぎたのね!
- オバケ
- 前にも言いましたが、僕に生命力はありません。僕はもう、
- 女
- んーーー! 死んじマエ!
- オバケ
- えっ
- 女
- 恨みマス。
- オバケ
- ええっ
- 女
- ちょっと待って。今恨み節を言うから。出会った時みたいに、すんごい恨み節言うから!
大凶!厄年!大殺界! 因果応報! 残酷非道! どう?、蘇る? この怨念パワー!
- オバケ
- え?あ、はい。まあまあ、蘇ったかな!
- 女
- よかった! 検索したから、恨み節! あ、もう時間。行かなくちゃ!
- オバケ
- はい、行ってらっしゃい。
- 女
- ね。明日も化けて出てくれる?
- オバケ
- もちろん。あなたが世界を恨んでくれるなら。
- 女
- うらむ!!
- オバケ
- じゃあ明日も会えますね。
- 女
- うん。明日も!! 行ってきます!
- オバケ
- 気をつけて!
- バタン。
- 女
- ほんとは、とても恨めない。だってやっと、やっと新しい恋が出来たんだもの!
- オバケ
- ほんとだ。僕、消えかかってる。そろそろ、成仏できちゃうんだ。
- 終わり。