こうして、召使いの青年とお姫様は、仲良く結ばれることができました。
それから、それから?
それから二人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。
それから、それから?
めでたし、めでたし。
えっ、おしまい?
おしまい。さ、もうおやすみ。
ちょっとお父さん、ふざけないで。
えっ。
二人は身分の差を自覚しているの?
ああ。自覚しているとも。それでも、二人で協力して、
周囲が反対したのは、反対するだけの理由があったからよ。
嫌がらせで言ってたわけじゃない。
育った環境の違いっていうのは、とっても大きいんだから。
うん。でも、もうおやすみ。
なにより金銭感覚の違いが大きいわよ。
あれ、ちょっと母さん、娘が。
絶対苦労するはずなんだから。ははーん、このお話には恣意的な編集が含まれている。
母さん来てくれ、ちょっと娘が。
結婚は人生のゴールではないし、単なる恋愛の果てでもないのよ。
母さん、娘がなんか、名言みたいなやつ言った。
子どもはどうするの? 産んだの?
産まれたさ。
お姫様に、育児はできるの?
そりゃあ、二人で仲良く、協力して、
だって、両親の反対を押し切っての結婚よ? 親の協力は得られないんだから。
お姫様だって、きっと働きに出なくちゃならないわ。
召使いから転職したって、収入はたかだか知れているでしょうし。
この召使いの青年はね、虫を愛する心優しき男なんだよ。
知ったこっちゃないわよ。コオロギにキスして時給いくらよ?
油で揚げて食ったほうが栄養になるわ。そもそも味覚だって大違いなのよ。
二人が同じ食卓を囲むのに、ストレスがないとは思えないわ。
そんなことはない。お姫様はね、召使いの田舎でとれる泥のついた山菜だって、
おいしく調理してくれるんだ。召使いの少ない収入にも嫌な顔ひとつしないで、
パートに出てくれている。
え、そうなの?
母さんはな、ああ見えて社長令嬢なんだぞ。あの頃、俺がビル清掃のアルバイトでな。
え、なに? お父さんとお母さんの話?
ほとんど駆け落ちだった。だけど、幸せだ。
そうじゃなくて、この絵本の続きは?
娘が大学に行きたいって言いだすかもしれないしな。少ないけど、貯金だってしてあるさ。
たまには、母さんに綺麗な服でも買ってあげたいんだけどな。
別にあたし、大学とか、まだ分かんないし。
だけど、そういうところは、あまり見せたくないだろう?
え?
カッコつけたいじゃないか。そりゃ苦労もするし、辛いことだってある。
我慢してることなんてたくさんある。でもな、幸せだ。めでたしめでたしって顔で、
毎日を過ごしてるんだ。父さんと、母さんも。召使いとお姫様もね。
なんか、ごまかされてる気がする。
続きが気になるなら、続きが自分に訪れるまで、ゆっくり、おやすみ。
ふーんだ。
そのときは、編集長になればいい。
END