- 心斎橋にあるアルキメデス歯科医院。
- 忖度
- 田中さん、今日型どりしたのができてくるのが、だいたい二週間後ですから、
 またそのころにいらしてくださいね。
- 田中
- はい。
- 忖度
- お大事に。
- 助手
- お会計960円になります。
- 田中
- 安して。
- 助手
- 無理です。
- 忖度
- 次の方どうぞー!
 俺の名は忖度。心斎橋でデンタルクリニックを開業している。この仕事は忙しい。
 時間に追われるサラリーマン、OLなどを次々と見なくてはならない。忙しい。
 忙しくて恋愛している暇もない。そろそろ結婚したいものだが・・・。
- 助手
- 先生、新規の患者さんです。
- 忖度
- 今日はどうされました?・・・うっ!!
- キラキラした音。
- ゆりこ
- 私・・・虫歯みたいなんです・・・。
- 忖度
- (息が荒い)
- 助手
- どうしました?先生?
- 忖度
- いや、どうもしない。う、どぅあっ(とか、何かすこし奇声を上げる)。ああ、ああ・・・。
- ゆりこ
- 先生。大丈夫ですか?
- 忖度
- 何がですか?なんの問題もありません。
- ゆりこ
- よかった。私、虫歯じゃないんですね。
- 忖度
- いや、虫歯です。
- 助手
- 全然見てないじゃないですか。
- 忖度
- わかるんだよ!!こりゃひっどい虫歯だ!10回ぐらい通ってもらわねばなりませんね!
- 助手
- いや、これだったら一回で・・・。
- 忖度
- 黙れ女!
 彼女はゆりこさんと言った。ゆりこさん、そう口にするだけでたまらない。
 私は一回で終えることのできる治療を、虫歯の隣にある健康な歯を意味なく削ったりして、
 無理やり10回に引き伸ばした。しかし、そろそろ限界だ・・・。
- 助手
- 先生、ゆりこさん本日ご予約ですけど・・・。
- 忖度
- わかっている。
- 助手
- さすがにそろそろ終わらないと、変に思われますよ?
- 忖度
- 大丈夫だ。いったん今日で終わる。
- 助手
- よかった。
- 忖度
- この薬を10倍に薄めたものを用意しておいてくれ。
- 助手
- これは?
- 忖度
- 塗れば100パー虫歯になる薬だ。
- 助手
- 先生!! 
- 忖度
- いずれ、クリニックが暇になった時、使おうと思って開発しておいた。
- 助手
- 先生には歯医者としての良心はないんですか?
- 忖度
- ないと思うのか!私がこの薬を使うことをどれほど苦しんで決めたか・・・! 
- ゆりこ
- こんにちは。
- 忖度
- 来たあ!
 どうぞこちらへ。
- 助手
- (心の声)先生、先生・・・。
- 忖度
- ん?
- 助手
- (心の声)使いませんよね・・・?
- 忖度
- (心の声)使わせてくれ・・・!もうこれしか方法がないんだ・・・!
- 助手
- (心の声)思い出してください。歯医者を志したときの熱い気持ちを・・。
- 忖度
- (心の声)はっ。
- 助手
- (心の声)先生はもっと、正々堂々とした人じゃないですか・・・!
- 忖度
- (心の声)そうだった!!
 ゆりこさん!!
- ゆりこ
- はい。
- 忖度
- ここに、虫歯になる薬があります。
 これを塗られるか、僕と結婚するか、どちらか選んでください!
- ゆりこ
- えっ?
- 助手
- 先生!
- 忖度
- さあ!
- ゆりこ
- そんな。
- 助手
- 先生、それは恐喝ですよ!
- 忖度
- 5秒で決めてください!
- ゆりこ
- あわわ。
- 助手
- もしもし、警察ですか!
- 忖度
- 5,4,3,2,1!
- ゆりこ
- ・・・結婚しますわ。
- 助手
- ええっ!!
- 忖度
- なんと・・・!
- ゆりこ
- 結婚いたしましょう。
- 助手
- 複雑ですけど、先生、おめでとうございます!!
- 忖度
- ♪バタフライ~今日は~今までの~
- 助手
- そうして、いったんゆりこさんは帰っていった。
 そして、二度と来なかった。
 当たり前だな!
- 終わり。