- ――男(岩田君)が車を運転している。助手席に女。車は高速道路を走っている。
 ――沈黙。
- 女
- 音楽かラジオか、かけてもいい?
- 男
- え?
- 女
- 音楽かラジオ
- 男
- あ、嫌
- 女
- かけたアカンの?
- 男
- うん
- 女
- は? なんでなん?
- 男
- 切ない音楽聴こえてきたら泣いてしまいそうやし
- 女
- 陽気なん選ぶやん
- 男
- それはそれで、そんな気分ちゃうし
- 女
- 耐えられへんねんけど
- 男
- なにが?
- 女
- 自分がふったんやんけ
- 男
- そうやけど
- 女
- なんで岩田君が落ち込んでんねん
- 男
- だって大学のときから付き合っててんで。落ち込むやろ
- 女
- そしたら別れんかったらよかったんちゃうん
- 男
- それはしゃあないやん
- 女
- は? しゃあないことないやろ
- 男
- しゃあなかってん
- 女
- どっちにしても落ち込むんおかしいやろ。気滅入るねん、隣で落ち込まれてたら
- 男
- ごめん
- 女
- 共感できへんねんなあ、落ち込んでる理由が。共感できへんし、
 私、そんな立場でもないから励ましたりもできへんし
- 男
- 励ましてや
- 女
- 嫌やわ。ややこしくなるし
- 男
- そっか、ややこしくなんのか
- 女
- 自分ら、あんなに仲良かったのになあ
- 男
- まあなあ
- 女
- 岩田君、めちゃくちゃ好かれてたのになあ
- 男
- せやなあ
- 女
- 他に好きな人とか作んなよ
- 男
- そうやなあ
- 女
- 付き合ってんのに、他に好きな人作るの最低やぞ
- 男
- そんなんしゃあないやん。そういう風になってしまったんやし
- 女
- まあ、人のこと好きになるときってそういうもんかもしれんけど
- ――沈黙。
- 女
- だから、この沈黙が嫌やねんって。音楽かけるで
- 男
- ドライブ付き合ってくれてありがとう
- 女
- だって私、別れたって知らんかったし
- 男
- 知ってたら、ドライブ付き合ってくれんかった?
- 女
- ミサトちゃんに申し訳ないし
- 男
- それって、でも、ほんまはどっちの方が申し訳ないかわからんくない?
- 女
- やっぱり、私、岩田君しんどいわ
- 男
- マジで自分にそんな風に言われんの冗談でも傷つくからやめてほしい
- 女
- 知らんし
- ――沈黙。
- 女
- また沈黙や
- ――沈黙。
- 女
- なあ、岩田君
- 男
- なに?
- 女
- ドライブ付き合ってあげたんやから、なんか買うてや
- 男
- なんかって?
- 女
- 次のサービスエリア寄ってくれへん?
- 男
- いいけど
- 女
- 私にアメリカンドッグとか買って、お腹空いたし
- 男
- わかった
- ――終わりです。