あの日、あんた、傘とどけてくれただろ。
うん。
それが嬉しかったんだ。そのう、あれだ。こう・・・嬉しかったんだよ。
わたしも同じよ。だって、電車で見つけた傘を、なくした人に、渡せたんだもの。
すごいよな。
すごいよ。
その日な、あの駅にいくまで、いろいろあったんだ。
そう。
だからさ、その日、あんたが、傘を渡してくれるまで、こう、いろいろあったんだよ。
そうなの。
しんどいこととか、つらいこととか、嬉しいこともそりゃちゃんとあったけども、
全体的にいうと、しんどいことのほうが、ちょっと上だったんだな。
ふうん。
そこに、あんただよ。現れたんだよ。ジャーンと。
わ、ヒーローみたい。
うんまあそんなもんだよ。
えへへ。
もう、40になるよ。俺。
うん。
40年間、生きてきてさ、無くした傘をさ、届けてもらったこと、なかったんだよ。
あの日まで。あんたが現れるまで、な。
なんだか照れますね。
俺も照れるよ。
えへへ。
えへへだよ。そうだよな、えへへだ。これは、なんというか「えへへ案件」だ。
へんなの。で、まだ、この話は続けますか?
続けさせてくれ。 タイミングっちゅーもんが、あってだな。あれだよ、言うべきときはだな、
あれだ、ちゃんと言わねばならぬのだ。あれ、でも、あれ、時間?
大丈夫。今日の時間は確保してるから。それをデートっていうんでしょ。
それは、どうも、デートのほう、毎度ありがとうございます。
どういたしまして。ほんとどうしたの。 今日はへんよ。
へんではない。
はい。
きっかけは、傘なんだけども。あれは、ボクの人生のなかの、一番のラッキーでした。
ラッキー?
そうとしか言えない。あんたが現れたことは、ボクの人生のなかの、一番のラッキーなのだ。
ラッキーなヒーローなのね。わたし。
そうです。
なんだかすごい人になったみたい!
俺の中では。
普通のOLなのに。
俺の中では普通ではない。
そうなの?
あんたは無敵だ。
すごいことになってる!
あんたといれたら、俺は無敵だ。
おおお・・・すごい展開に・・・
いや、マジで言ってる。俺はマジで言っている。
はい。
そのう、だからですね。そのう、あれなんですよ。だからですね。あのう。
うん。
ボクあ、たいした人間じゃないけれども、たいした人間じゃないからこそ、
いや、そのう、あのう、だからだ!!
どうしよう、私から言えそうな気もするけれど、どうしよう。
いや! ここは。ここはヒーローの出番ではない!ここは俺がヒーローな!なっ!
はい。
だから、そのう、あれだ。あれなんだよ。
はい(笑う)   
だから、あれなんだ!がんばれ俺!
ちゃんと時間は確保してます!
それはどうも毎度ありがとうございます!
はい!こちらこそ!
それでだね。だからだね、あれなんだ、あれなんだよ・・・
おわり。