- 夕暮れ時。カラスが鳴く。
 サオリ、元気な口調ではなく、気だるそうに。
- サオリ
- はいどーも、サオリでーす。
- カナタ
- え?
- サオリ
- え、やないやろ。ウチがサオリ言いまして、ほんで相方の、はい、名前。
- カナタ
- カナタでーす。
- サオリ
- はい、二人合わせて。
- カナタ
- ……え。
- サオリ
- 決めてええよ。
- カナタ
- えー、仲良し、えー、仲良し、仲良し、どうしよ。仲良し、
- サオリ
- 仲良しカップルでーす。よろしくお願いしまーす。
- カナタ
- え、なに、別れんでいいの?
- サオリ
- なにがやの。
- カナタ
- え、カップルって。
- サオリ
- ほんまこの相方ねー、ウチのこと好きや好きや言うてやかましいんですわ。
- カナタ
- んなもん好きやねんから、しゃあないがな。
- サオリ
- どこが好きやねんな。
- カナタ
- いやわからんけど。
- サオリ
- なんでやねん。そこはわかっとけや。ビシバシ言語化してくれや。
- カナタ
- なんか、宿命を感じるというか。
- サオリ
- そこは運命にしとこうや。永遠のライバルみたいになってるやん。
- カナタ
- 俺がピッチャーやとしたら、お前が相手チームの、ピ、キャッチャーやん。
 あ、ランナーコーチやん。あ、ちゃう、待って、サードランナー、え、俺が、グローブ。
 あ、でも男やからバットか。棒やから。でもある種、皮が、グローブか。
- サオリ
- 一旦落ち着いて。男やからバットとかやめて。
 ウチまあまあ思春期やし。皮とかは絶対にやめて。
- カナタ
- で、応援、お前がチアガールか。可愛い。ビール売りでもええけど。
 あ、ウグイス嬢、あ、チケットもぎりのお姉ちゃんがええか。
- サオリ
- どんどんグラウンド出ていくやん。
- カナタ
- で、俺が、監督やな。俺サイン出してるやん。お前に。好きやーっ、って。
- サオリ
- 声出てるけど、サイン出したほうがよくない?
- カナタ
- チケットもぎってるお前に届くように。
- サオリ
- 監督何してんねん。
- カナタ
- ほんで俺とお前の、バッティング勝負が始まんねん。
- サオリ
- なんでやねん。ええ加減せえ。(以後、終わりそうな口調で)
- カナタ
- ほんで、あれやんけ、最終的に、幸せな家庭、素敵なバッテリーを組むんやんけ。
- サオリ
- いやバッターどこ行ってん。もうええわ。
- カナタ
- そら俺野球ばっかやってたから、アホで、落ちてもうたけど。
- サオリ
- こいつ一人でアホアホ高校行かはるんですって。もう、やめさしてもらうわ。
- カナタ
- 別に高校がちゃうかっても、付き合えるやん。
 ショート守ってるときでも、セカンドランナーをナンパできるやん。
- サオリ
- その才能あるなら、はよ道頓堀いったほうがええわ。ほな、おおきに。
- カナタ
- 高校ちゃうくても付き合っていけるって。
- サオリ
- ありがとうございました。
- カナタ
- ホームラン打つから!
- サオリ
- 以上、仲良しカップルでした。
- カナタ
- 俺、お前のことめっちゃ好きやねん。
- サオリ
- 次週からこの時間は、元彼元カノ漫才をお送りいたします。
- カナタ
- 俺、……生まれ変わっても、お前のこと、ドラフト一位に指名するから。
- サオリ
- ウチ、チケットもぎりやけど。
- カナタ
- ほな、また、……もぎってくれ。
- サオリ
- なんやの、それ。
- カナタ
- いつか、俺が、野球少年が、目を輝かせて、お前のところにやってきたとき、
 (涙をこらえるように)お前は、もぎってくれ。チケットを、もぎってくれ。
- サオリ
- もぎるから、泣きなや。
- サオリ、はじめて少し笑う。
 遠くのほうで、金属バットがボールを打つ音。
 誰かの野球は、まだ続く。
- END