- 京橋にある、バー。れいじとあきこが丸いテーブルを前に見つめ合っている。
- れいじ
- 僕たち、始まってしまったね・・・。
- あきこ
- ・・・・。始まった・・・?
- れいじ
- 今宵、始まってしまったね・・・。
- あきこ
- えーっと。
- れいじ
- 乾杯。
- あきこ
- あ、はい。
- れいじ
- マスター、こちらのお嬢さんに、何か甘いリキュールを。
- あきこ
- えっ。私甘いお酒好きじゃない・・・。
- マスター
- かしこまりました。
- れいじ
- これからは僕にいろいろ任せるといい。
 なんてったって君は僕の、か、か、彼女になったんだからね。
- あきこ
- はあ。
- れいじ
- 何度乾杯しても、足りないくらいだね。乾杯。
 僕の好きな食べ物はね、ハヤシライスなんだ。乾杯。
 僕の祖父はね、島根出身なんだ。乾杯。ああ、乾杯しすぎだね。
 乾杯。・・・ああ、ああ!!
- あきこ
- ちょっと、お手洗いに。
- れいじ
- ついていこうか。
- あきこ
- いえ、ここにいて!!
- れいじ
- オーライ。
- あきこ、去る。トイレで電話している。
- あきこ
- どうしたらいいと思う?
 最初はいいかと思ったんだけど、でもなんか、付き合うってなったら、
 ちょっと違う気が・・・!いや、付き合うって言っちゃった私も悪いんだけど・・・。
 そうだよね、別れるなら早い方がいいよね。できるかな。
 いや、がんばってみる。ありがと。
- あきこ、帰ってくる。
- あきこ
- トイレ、結構混んでて・・・。あれ、寝てる?
- れいじ
- ひっかかった。
- あきこ
- えっ。
- れいじ
- 狸寝入り。これからもちょくちょくするかもね?
- あきこ
- あああ・・・。このナッツ、食べてもいいですか!!
- あきこ、勢いよくナッツを食べる。
- れいじ
- ついに、僕を支配したね・・・。
- あきこ
- (食べながら)支配!?
- れいじ
- はは、ナッツが飛んできたよ。僕はね、あきこさん。・・・あきこ。
 いやあ、呼び捨てはやっぱりまだ無理だなあ。あきちゃん。
- あきこ
- あああ。
- れいじ
- 彼女にはすべてをささげようと思ってこの20年間、生きてきたんだ。
- あきこ
- 別れてください!!
- れいじ
- えっ?
- あきこ
- 申し訳ない、申し訳ない!
- れいじ
- ・・・今日のところはお別れ?あ、もう帰らなきゃいけないってことだね。
- あきこ
- 違う違う。
- れいじ
- えっ、じゃあどういう・・・。
- あきこ
- 自分が悪かったと思ってるんです!でも、やっぱりその、別れてください!
- れいじ
- それって・・・。
- あきこ
- 破局!破局!!
- れいじ
- ウソだあ!
- あきこ
- ほんとなの!
- れいじ
- いやだあ。
- あきこ
- ごめんなさい。ほんとにごめんなさい!!
- れいじ
- せっかく彼女ができたんだあ!
- あきこ
- だからごめんって!!
- れいじ
- 何が悪い?何が悪いのか言ってくれ!!
- あきこ
- 悪いとかじゃないの。
- れいじ
- じゃあいいじゃん!
- あきこ
- でも、なんか、なんか違うの!!
- れいじ
- いやだ、いやだあああ。
- あきこ
- ちょっと!床に寝ないでよ!!こんなところで!
- れいじ
- あきこおお。
- あきこ
- (周りに)すいません、何でもないんです!ちょっと背中がかゆいみたいで。
- れいじ
- かゆくない!
- あきこ
- わかってるわよ!
- れいじ
- ひどいよ!!部屋もとったのに!(鍵を出す)
- あきこ
- 何それ。
- れいじ
- ホテルのカギじゃないか。
- あきこ
- ホテル?!
- れいじ
- 奮発したよ。
- あきこ
- バ、バカじゃないの?
- れいじ
- さあ行こう!!
- あきこ
- 行かないわよ!
- れいじ
- お願いします!
- あきこ
- ちょっと!土下座やめて!
- れいじ
- 夢だったんです!!彼女という存在とホテルに行くのが!!
- あきこ
- みんな見てる!!
- れいじ
- 行ってくれるまでやめない!お願いします!!
- あきこ
- もー!!
 ・・・彼に押し切られ、結局、ホテルにいってしまいました。
 その後も何度も別れようとしたのですが、そのたびに土下座で押し切られ、
 ついには彼と結婚までしてしまいました。恐ろしいようですが、ほんとの話です。
 土下座されたら、かなわないや・・・。
- おしまい。