- 常夫
- 人生にはたくさんの分かれ道がある。
人はその前で、どちらの道をゆけばよいものか、途方に暮れ、立ち止まる・・・。
- 夜の街。交通量の多い、主要道路沿いの歩道。
- 占い師
- お若いの。
- 常夫
- ・・・私ですか?
- 占い師
- 悩んでおるな。
- 常夫
- ・・・。
- 占い師
- この婆にはわかる。四十年、ここに座って道行く人の顔を見ておるのじゃ。
ひとつ、占ってしんぜよう。
- 常夫
- しかし・・・。
- 占い師
- 遠慮はいらん。一回三千円じゃ。
しかし三千円で占えるのは、健康についてとか、恋愛についてとか、
一つのトピックだけなので、総合的に占える五千円コースがおすすめじゃ。
- 常夫
- ・・・やめときます。
- 占い師
- (常夫の言葉をさえぎって)四千円でいい。三千円でいい。
逃げないどくれ。帰ってきて、帰ってきて、ちょっと!!
あっ、心臓が、心臓が!!
- 常夫
- 大丈夫ですか。
- 占い師
- ありがとう。五百円でいいから。
- 常夫
- それなら・・・。
- 占い師
- さてさて、お若いの、見たところ三十半ばくらいじゃな。
- 常夫
- 35です。
- 占い師
- ドンピシャ、ヒュー!・・・すまんな、はしゃいで・・・。
- 常夫
- いいんですよ、好きな時にはしゃぐ。結構じゃないですか!!
- 占い師
- ど、どうした・・・?
- 常夫
- へっ!なんでもねえよ。
- 占い師
- あっ、何を取り出しておる!
- 常夫
- ウォッカだよ。
- 占い師
- あっ、一気に!
- 常夫
- ウォッカはきくねえ。
- 占い師
- 帰ってもらえませんか。
- 常夫
- 俺はよ、ばあさん。明日っから無職になるのさ。
- 占い師
- そうなの。
- 常夫
- まあこの三か月、契約を一件も取れなかったから、しょうがないっちゃ、しょうがない。
- 占い師
- なるほど。ではこの婆が、今後の仕事運について占ってしんぜよう。
- 常夫
- いや、恋愛運を占ってくれ。
- 占い師
- これは異なことを。
- 常夫
- 実は、二人の女に言い寄られてるんだ。
- 占い師
- やるのう。
- 常夫
- 一人は看護師の女さ。お世辞にも美人とは言えず、全然タイプでもない。
- 占い師
- もう一人の女は?
- 常夫
- ずっと前から口説いていた女さ。最近ようやく俺の良さに気づいたらしい。
- 占い師
- じゃあ迷うことないではないか。
- 常夫
- ところがこの女、家事手伝いなのさ。
- 占い師
- ほう。
- 常夫
- かたや看護師・・・。俺は明日から無職。どっちを選ぶべきなんだ・・・!
- 占い師
- なかなかゲスな悩みだったな。
再就職して、好きな女と付き合えばいいではないか。
- 常夫
- 働こうという気が起こらないんだ。
- 占い師
- なるほど。では、これにて占おう。
- 常夫
- タロットカード?
- 占い師
- そうじゃ。(カードを繰って)カードを通じて、天からのお告げを聞くのじゃ。
・・・ハッ!!よし。
- 常夫
- おお。
- 占い師
- ではカードをめくって天の意見を聞こう。(めくって)はっ!!
- 常夫
- なんですか!
- 占い師
- 皇帝のカードが出た!
- 常夫
- おお。意味は?
- 占い師
- ・・・ちょっと待ってくれ。
- 常夫
- なぜスマホを触るんだ。
- 占い師
- 皇帝のカードは、エネルギーを象徴し・・・。
- 常夫
- ふんふん。
- 占い師
- ビジネスにおいては成功を得るでしょう。
- 常夫
- いや、クビになったんだよ!
- 占い師
- タロットやめよう。なんかようわからんわ。
- 常夫
- わかんないのかよ!
- 占い師
- よいしょ。
- 常夫
- 水晶?
- 占い師
- これを覗き込みながらそなたの未来を・・・うっ、酔った。
- 常夫
- うそお。
- 占い師
- もう今夜はしまいじゃ。
- 常夫
- 俺どうしたらいいんだよ!!
- 占い師
- 自分の人生じゃ!自分で決めんか!
- 常夫
- 占い師の意味?!
- 終わり。