- 男
- 面白い話でもしようか?
- 女
- いらないよ、面白い話なんか
- 男
- そっか。じゃあ、楽しい話でもしようか?
- 女
- いらない
- 男
- じゃあ、感動的な話は?
- 女
- いらない
- 男
- そっか
- 女
- うん
- 男
- 俺、なにかしたかな?
- 女
- え、なんで?
- 男
- だって、怒ってる
- 女
- え、怒ってないよ
- 男
- でも、俺の話、全然聞いてくれないし
- 女
- それは、面白がらせようとしたり、楽しませようとしたり、感動させたりしようとするからだよ
- 男
- じゃあ、どんな話が聞きたいの? 為になる話でもしようか
- 女
- それは一番いらないな
- 男
- そうなの?
- 女
- なに。そんなに話聞いてもらいたいの?
- 男
- 聞いてもらいたいから、こんなに必死になって頑張ってるんじゃないか
- 女
- 頑張らなくてもいいよ
- 男
- え
- 女
- 頑張らないで
- 男
- でも、それじゃ話を聞いてもらえない
- 女
- 聞くよ
- 男
- 頑張らないのに
- 女
- うん。聞くよ
- 男
- でも、頑張らなかったら、面白くもならないし、楽しくもならないし、
感動もできないし、為にもならないし。それでもいいの?
- 女
- いいよ。面白くもなくて、楽しくもなくて、感動もできなくて、
為にもならない話、話して。
私のために、なんでもない話して
- 男
- わかった。でも、難しいね。なんでもない話は
- 女
- 難しいの、なんでもない話
- 男
- どうしても頑張ろうとしてしまう
- 女
- そうなんだ。そういえば、あなたはさみしがる人だったね
- 男
- そうだったかな
- 女
- さみしいなら、さみしいって、そう言えばいいのに
- 男
- 難しいことだよ、それは
- 女
- そうなの?
- 男
- 難しいよ
- 女
- そっか。私はさみしいな
- 男
- え
- 女
- 私はさみしい
- 男
- なんでさみしいの?
- 女
- なんでって言われても、さみしいのはさみしい
- 男
- さみしいなんてことはないはずだよ。だって、俺が
- 女
- だって俺が?
- 男
- だって俺がこんなに話してるのに
- 女
- さみしいときにさみしいって言ってもらえないのは、でもさみしいよ
- 男
- さみしい
- 女
- うん
- ――終わりです。