- 女
- 狭いんですけど、この路地裏。
- 男
- しばらくの辛抱だ。
- 女
- 本当に、間違いないんですか。
- 男
- 間違いない。あそこが、今をときめく人気アイドル「ワンチャンス」のモモカちゃんと、
二歳の娘を持つ人気パパタレント矢島さんの密会場所だ。
ばっちり、カメラに収めてやる。白のクラウンに要注意だ。
- 女
- それにしても、あの矢島さんが不倫だなんて。
- 男
- 裏の顔はわからんもんさ。
- 女
- あーあ。なんだか嫌になっちゃうなあ。
- 男
- おい、仕事なんだ、しっかりしろ。
- 女
- 男の人って、みんな不倫してるんですか。
- 男
- 俺以外はな。
- 女
- あらカッコイイ。惚れちゃいそう。
- 男
- やめとけ。うちのは鬼嫁なんだ。
- 女
- それにしても、素敵な商売だと思いませんか。
他人の情事を出歯亀して、あーだこーだと喚きたててチャリンチャリンって。
- 男
- 嫌なら辞めちまえ。
- 女
- あたし、決定的な証拠が無ければ、記事にはしませんからね。
- 男
- 証拠が無けりゃ作るんだよ。白のクラウン、白のクラウン…。
- 女
- いいんですか、ねつ造されても。
- 男
- ねつ造される? するの間違いだろ。
- 女
- つけられてますよ、あたしたち。
- 男
- ……誰に。
- 女
- さあ。他社かもしれませんけど、もしかして探偵かな。
- 男
- 探偵? なんだ、探偵って。
- 女
- 疑われてるんじゃないですか。私生活を。鬼嫁とやらに。
- 男
- ……ちょっと待て。お前は俺の仕事仲間だ。
- 女
- あたしもそのつもりですけど。
- 男
- ここにいるのは、張り込みだ。疑われるようなことは何もしていない。
- 女
- まあでも、暗い路地裏に男女二人ですからね。結構な密着度ですし。
- 男
- ……まずいかな。
- 女
- あっ、白のクラウンから矢島さんが。
- 男
- なに!
- 女
- ちょっと、大きな声。こっち見られたじゃないですか、ほら、カメラ隠して。
あー、もうしょうがない。んしょ。こっち向いて。
- 女、男にキス。
- 男
- あっ、ちょっ、ええっ!?
- 女
- ここは路地裏のカップルを装わないと。
- 男
- バカ野郎、今そんなことしたら…。お前、俺を殺す気か!
ちくしょう、伝えてこい。私たちは何でもありませんって。
- 女
- 矢島さんに?
- 男
- 矢島さんなワケあるか! その、探偵にだよ!
- 女
- あっ、あれ、「ワンチャンス」のモモカちゃんだ。
- 男
- お前、ちょっと、あんまり引っ付くな!
- 女
- しょうがないでしょう、狭いんだから。
- 男
- くそ、こうなったら。
- 女
- あ、ちょっと、そんなあからさまにカメラ構えたら。
- 男
- お二人さーん! どーもー! 週刊誌でーす! 私たち週刊誌でーす!
絶賛仕事中でーす! イエーイ! 週刊誌でぇーす!
- カメラの連射シャッター音。
車のドアが閉まり、走り去る。
- 女
- あーあ。逃げちゃった。
- 男
- はぁ、ちくしょう。今回はしょうがねえ。
- 女
- 仕事より、奥さんのこと選ぶんですね。
- 男
- 当たり前だろ。
- 女
- あらカッコイイ。惚れちゃいそう。
- 男
- 勝手にしろ。
- シャッター音
- 二人
- あ?
- END