- バスケットボールの試合中。タイムアウト。
息の荒い女生徒に、監督は最後の発破をかける。
- 男
- 268対、ゼロ。
- 女
- 268対、ゼロ。
- 男
- 絶望的だな。
- 女
- 絶望的です。
- 男
- だけど、先生は君たちに諦めて欲しくはない。
- 女
- はい!
- 男
- 正々堂々と、勝利をめざして最後まで戦い抜いて欲しい!
- 女
- はい!
- 男
- お前たちの、三年間のすべてをぶつけるんだ!
- 女
- はい!
- 男
- さあ、ハルナ。キャプテンとして、お前が最後までチームを引っ張っていくんだぞ!
- 女
- わかりました、監督!
- 男
- よし、いけ!
- 女
- 監督!
- 男
- なんだ!
- 女
- 作戦は!
- 男
- さ、作戦!?
- 女
- 作戦はどうしましょう!
- 男
- さ、作戦!?
- 女
- はい!
- 男
- ハルナ、お前、勝つ気でいるのか?
- 女
- もちろんです! 監督の三年間の教えに従い、私は最後まで諦めません!
- 男
- ようし、その心意気だ!
- 女
- はい!
- 男
- よし、いけぇ!
- 女
- 監督、作戦は!
- 男
- 作戦は、ない!
- 女
- え!
- 男
- 全身全霊、すべての力を出し切って相手に向かっていくのみだ!
- 女
- しかし監督! 戦略、戦術が勝利を左右すると日々の練習でも!
- 男
- 作戦なんかでは、もう勝てない!
- 女
- 監督、もしかして諦めているのですか!?
- 男
- 諦めてはいない!
- 女
- だったら作戦を!
- 男
- いいか、ハルナ! 作戦は、もう、無い!
- 女
- どうして!
- 男
- 1秒に1回ゴールを決めても足りないからだ!
- 女
- 監督、さっき、最後まで諦めるなと言いましたよね?
- 男
- 言った、言ったが、それは、諦めずに戦い抜くことを最後まで諦めないでほしいということだ!
- 女
- どういう意味ですか!
- 男
- もう勝てないんだ! もう勝てない! もう勝てないんだが、もう勝てないからこそ、
「どうせ負ける」と思ってほしくないんだ! 先生は!
- 女
- そんなの、ヤダよ!
- 男
- ハ、ハルナ!
- 女
- 監督、この試合で勝ったら付き合ってくれるって言ったじゃん!
- 男
- ハ、ハルナ! 今その話は!
- 女
- 好きだったのに! 三年間、ずっと、引退するまで我慢してたのに!
- 男
- ま、まだ勝負は分からないだろ、ハルナ!
- 女
- もう勝てないんでしょ! どんなに作戦を練ったって、どんな戦略を用意したって、
あたしたちはもう勝てなくて、あたしは監督と付き合えないんでしょ!
- 男
- ハルナ! ええとな、先生の、その、後者には余地がある!
- 女
- え!?
- 男
- 試合には、もう、勝てん! しかし、その、勝ったら付き合う云々の部分に関しては、
試合中の振る舞い、もしくは試合後の何かしらで可能性が残されている!
- 女
- 監督、本当!?
- 男
- ハルナ! ちょ、抱きつくな! この試合にはPTAも来ている!
- 女
- じゃあ、じゃあ、どうせ負けるけど、どうやっても負けるけど、それでも、自分の頭を使って、一生懸命相手に勝とうとしたら、監督、あたしのこと、好きになってくれる!?
- 男
- ああ、そうだな! そんな、ハルナの懸命な振る舞いに、先生きっと、心打たれる!
- 女
- よおし! 監督! 行ってくるね!
- 男
- ああ、行ってこい!
- 女、コートへ走っていく。
- 男
- いくつになっても、女には勝てん……。
- 試合再開の笛が鳴る。
- END