医学的には、恋。
医学的には、恋。
だそうですよ。
らしいですね。
とても、そうは思えませんが。
ええ、あたしも。
脳の中で、ある種の成分が分泌されているようですね。
ええ。病気のようで、病気ではない、と。
あなたを見ると胸が高鳴って、すごく抱きしめたくなる。
そんなことを言われると、身体が熱くなって頬が赤く染まってしまう。
でも。
でも。
二人
好きじゃないんですよねぇ。
申し訳ないんですけど。
いえ、こちらこそ。
しかし、参ったな。あなたのことを考えると、
仕事が手につかなくなるので病院に来たんですけど。
あたしも、同じです。あなたと出会って以来、あなたのことばかり考えてしまう。
どうしたものですかね。
心と身体が全く違う反応をしているようで、なんだか気持ちが悪いんです。
ええ。そりゃ恋だと言われてしまえば、そういうものかもしれませんが、とは言え…。
あの、お薬は。
えぇ、処方されました。ただ、飲むか飲まないかはお任せしますと。
あたしもです。あくまでもこれは恋であって、病気ではないから、
本来なら飲む必要はありませんがと、注意を受けました。
でも、飲んだ方がいいですよねぇ。
そうですよねぇ。
飲みますか。
飲みますよねぇ。
じゃあ、飲みます、ね。
あ、でも、あたしのほうが先でいいですか?
え、どうして。
なんか、だって、あなたが先に飲んで、こう、先に治ったら、
あたしがなんか、失恋したみたいな感じになりません?
ああ、確かに。
じゃあ、先に飲みますね。
あ、まあ、はい。
え、いいですよね?
そうですね、はい。
じゃあ。
女、薬を飲む。
じゃあ、帰りますね。
え。
お疲れ様です。
え、え、え、ちょ、ちょっと待ってください。どんな感じですか。どうなってるんですか。
あ、え。
あ、え。
な、なんですか。
あれ、なんか、僕、失恋したみたいになってません?
帰っていいですか?
え、え、え、なにこれ、寂しい寂しい寂しい。先に飲んだ方が良かった!
ちょっと、早く飲んでくださいよ……。怖いです。
あ、いや、すみません。ええと。
さあ、飲んで。
はい。
男、薬を飲む。
じゃあ、帰りますか。
ええ、さようなら。
さようなら。……また、会うこともありますかね?
薬が切れたら、あるいは。
END