STORY FOR TWO

平成仏教大学の校内。チャイムの音。
のぼる: 四限はアビダルマ仏教概論か・・・。さぼるか・・・。
ゆきこ: はあっ・・・！
のぼる: えっ。
ゆきこ: やっと会えた・・・！
のぼる: えっと・・・。
ゆきこ: あの時はありがとう！ねえ、何してほしい？
のぼる: えっ？
ゆきこ: 何してほしい？助けてくれたお礼だよ。割となんでもするよ！
のぼる: ちょっと待って！人違いじゃない？
ゆきこ: ちがわない。あれはおとといのことだよ。私が百曼陀羅通りを、みぎひだりも見ずにぴゃって渡ろうとしてた時。ほら、私たち猫ってそういうとこ、あるから。
のぼる: ん？
ゆきこ: そしたらのぼる君の心の声がすごくうるさく聞こえてきたので足を止めたら、
目の前をトラックがバーって。のぼる君がいなかったら、ひき殺されていたよね。
のぼる: ちょっと待ってちょっと待って。一個一個確認させて？
ゆきこ: どうぞにゃん。
のぼる: ・・・えーっと、ね、猫・・・？
ゆきこ: そうですにゃー。
のぼる: いやいや。
ゆきこ: 信じないの？
のぼる: （笑って）だって君。
ゆきこ: はーっ！
のぼる: 何何？・・・うわっ。かゆい。
ゆきこ: ノミを飛ばしたの。
のぼる: わーっ！！
ゆきこ: 信じた？ねえ、信じた？（はあはあ言ってる）
のぼる: いやいや。かゆいかゆい。
ゆきこ: 信じないの？信じないんだったらもう、死んでもらうしかないかな。; シャキーン、という音。
のぼる: 爪！！爪！！
ゆきこ: お前ののどぶえをひとかきに！！
のぼる: やめてー！
ゆきこ: 信じた？ねえ、信じた？
のぼる: 信じたよ！
ゆきこ: よかった、殺さずに済んで！神様！
のぼる: おかしいよ！！恩返しにきたんでしょ？
ゆきこ: にゃん。
のぼる: かわいくないからね？
ゆきこ: はあっ・・・！（ぜいぜい言う）疲れた・・・！
爪を出すと、フルマラソンくらいの体力を消費するの・・・！
のぼる: じゃあやめときゃいいのに。
ゆきこ: でも恩を返さないと・・・。
のぼる: 別にいいんだけどなあ。こっちはそんなに助けたって意識もないんだし・・・。
ゆきこ: でもあの時のぼる君の思念が聞こえなかったら今ごろ・・・。
のぼる: 思念？
ゆきこ: 「ああー、りりかと付き合いてー。」って心の中で叫んでたよ？
のぼる: あっ。ちょっと、秘密にしといてよ？
ゆきこ: えっ？りりかに伝えたよ？
のぼる: ウソ！
ゆきこ: ほんとだよう。
のぼる: じゃあじゃあ、りりか、どう言ってたの？
ゆきこ: ダメだって。
のぼる: そっか。いや、わかってたんだ。りりか程の女には俺じゃあダメだって。
ゆきこ: えっとね、「のぼる君となら付き合ってもいいと思ってたけど、
こんな風に人に頼んで告白してくるような男じゃあ、ちょっと付き合えないな。」って。
のぼる: おいおい！
ゆきこ: 残念だったね。
のぼる: 残念だったねじゃねーよ！えーっ、じゃあ俺普通にりりかに告白してたらつきあえてたの？
ゆきこ: そうだよ？
のぼる: そうだよじゃねえよ！うわー！めっちゃショックだわ。
ゆきこ: そうだろうと思ったからね、
のぼる君の友達みんなに、なぐさめてくれるように頼んどいたから。
のぼる: 何やってんだー！
ゆきこ: のぼる君に早く立ち直ってほしくて・・・。
のぼる: 余計なお世話だよ！ていうか、そもそもなんで俺の名前知ってんの？
ゆきこ: おととい、のぼる君が免許証を交差点に落としたから。
のぼる: えっ。あっ、ほんとだ。ない！で、免許は？
ゆきこ: そのままにしといたよ。
のぼる: 拾ってよ！！
ゆきこ: あと、銀行のカードも落としてたよ。
のぼる: うわー！！それは？それは拾った？？
ゆきこ: いったん拾って、
のぼる: よかった。
ゆきこ: そして捨てたよ。
のぼる: なんでだよ。拾ってよ。恩返しっていうなら、まずそこから始めてみて？！
ゆきこ: そうだった。恩返しに来たんだった。何してほしい？
のぼる: もう帰ってよ。
ゆきこ: やだ。ついてくよ？
のぼる: ダメだよ。うちのアパート、ペット禁止だし、だいたい俺、猫アレルギーなんだから。
ゆきこ: えっ。
のぼる: あっ・・・。か、かゆいかゆい。
ゆきこ: すごいじんましんが！どうしよう！どうしたらいいいかな！
のぼる: まず俺から離れてくれ！！; 終わり。