- ゴーーーーと大気の音。
- 男
- ある朝、目が覚めると、眼下に街が広がっていた。
- ゴーーーー。
- 男
- 鼻がかゆくて右腕を動かすと、
- ばちっばちちちち。
- 男
- いてっててててて。電線がちぎれた。
- ドシーーーン
- 男
- 次に電柱が倒れ、停電し、信号が麻痺、目の前のビルが倒壊した。
- ドシーーン
- 男
- 俺の右足で蹴ってしまったからだ。
- バリバリバリバリバリ(ヘリコプターの羽音
(ヘリの声)動いてはいけません。動いてはいけません。
- 男
- 右耳のあたりで、ヘリコプターが騒いでいる。本気でハエだと思った。
- 女
- ももくーーーん。
- 男
- ヘリコブターから彼女の声がする。
- 女
- ももくーーーん
- 男
- 目を細めてよく見ると、ヘリの窓の向こうにゆきちゃんがいる。
- 女
- ももくーーーーん。
- 男
- ゆきちゃん。
- 女
- はっ、わかったみたいです!ももくん、私だってわかったみたい!
- 男
- おはよう。
- 女
- おはよー!
- 男
- ゆきちゃん、ちっちゃいね。
- 女
- うふふ、ももくんがおっきいんだよ!
- 男
- え?
- ドシーーーーーン
(ヘリの声)動いてはいけません、動いてはいけません。
- 男
- どうやら右肩にあたって高層ビルが倒れたらしい。
- 女
- ももくん、じっとして! うごいちゃだめ!
- 男
- な、なんじゃこりゃーーー!
- 女
- 落ち着いて、落ち着いて、ももくん。いまゆきが説明するね!
- 男
- ちょ、ちょっとまって、
- 女
- ううん、またない、説明するから、まずは聞いて!
- 男
- いったいこれは、なんじゃこりゃーええ ????
- 女
- 浮気!
- 男
- えっ
- 女
- ばれてるからね。浮気。
- 男
- えっ
- 女
- となりのクラスのはるか。
- 男
- し、知って・・・
- 女
- 知ってる。
- 男
- ご、ごめん。
- 女
- 大丈夫です、落ち着きました。撃たないで。みなさん、撃たないでください。
- 男
- ごめん、俺。
- 女
- 大丈夫。たいしたことない。落ち着いた?話聞ける?
- 男
- はい、聞けます。
- 女
- じゃあ説明するね。
ももくん、昨日から体が急に大きくなって、今は富士山くらいになってるの。
- 男
- ふじさん?
- 女
- 山ね。
- 男
- 山?
- 女
- そう山。ゆっくり大きくなったから、街のみなさんは全員避難できた。
問題は街の破壊をどれくらい防げるか。
- 男
- 街の破壊?夢じゃないの。
- 女
- ももくん。
- 男
- なんだよ、俺泣きそうだよ、どうなるんだよ。俺。
- 女
- 好きよ。大好き。
- 男
- え、
- 女
- ゆきはそばにいる。最後まで、ゆきは見届ける。
- 男
- 最後まで。
- 女
- だって飲み会でプロポーズしてくれたでしょ。
- 男
- それは、
- 女
- 酔った勢いでも、プロポーズを受けたからには、ゆきは逃げない。
- 男
- ゆきちゃん・・・俺。おれ!
- 女
- ばかなももくん。
- 男
- おれ。
- 女
- 好きよ、大好き。大好きよ。
- 男
- ゆきちゃん。ゆきちゃん。だきしめたいよ。だきしめたいよ。
- バリバリバリバリバリバリ・・・・
(ヘリの声)動かないでください、動かないでください。
- 終わり