扉の開く音。
わ、本当にペンギンさんなのですね。びっくりしちゃいました!
あ、新しいアシスタントさん?
あ、はい。よろしくお願い致します
よろしくね
わたくし、ペンギン先生に憧れてこの世界に入ったんですの
へぇ
本当、わたくし、ペンギン先生の書く作品が、もう、大好きなんですの。
先生が例え人間でなくっても、溢れる才能と、人間界でペンギンとして生きる孤独の中から
紡ぎ出される、とっても美しい言葉の数々。わたくし、結婚するならこんな方と……。
なんて。今のは聞かなかったことにしてくださいまし
(満更でもない様子)ふぅん。……じゃ、ゴメンだけど、仕事よろしく
はい。勿論ですわ
「カリカリ」と紙に書きつける音がしばらく聞こえる。
止まって。
あのさあ
はい
俺と、まあ、その、なんちゅうか、あれ、……あれ……とか……出来る訳?
え?
ああ、いや、まあ、その、あれでしょ、あれなわけでしょ、その、君はさ、
俺の事が、まあ、好き、好きっちゅうか、まあ、あの、好き、な、わけでしょ
……
……俺と、その、まあ、そういう事、とかは、その……、出来る訳?
間。
せんせ、嫌ですわ。わたくし、恋人がおりますのよ
ふん、ああ、そう、そうなんだ
ふふ。先生ったら冗談がお上手なんですね
え、ペンギンだから?
え?
俺がペンギンだから?
その……
俺がペンギンだからそういうのは無し、なんでしょ。
俺がペンギンじゃなかったらさ、やってたでしょ、そういうこと、実際
そんな訳ありませんわ!
いや、やってたんだよ。知ってんだよ。俺が人間だったらやってたんだよ。
知ってんだよ、そういうのは
わたくし、そんな、ふしだらな女じゃありません!
間。
じゃあぎゅってしてよ
……
俺のこと、ぎゅってしてよ
……
満たされないんだよ。何してても。面白いもん作って、高い服着て、いい酒飲んで、
美味いもん食っても、何してても、俺、ペンギンだから、満たされないんだよ。
毎日毎日ずっとペンギンだから、朝起きて人間だったこと一回も無いから、
もうさ、……俺とさ……、しなくてもいいからさ……、ぎゅってしてよ……
ぎゅっ、ですか?
うん
一回だけですよ
うん
後腐れなしですよ
うん
女、男を抱きしめる。
間。
……
満たされましたか?
……
先生……?
……。虚しい……
……。はい……
……。あーあ……
おわり。