- 女
- ない。ないよ、でももうじき吹奏楽の練習始まるし、
- 男
- だね。先輩が伴奏だしね。
- 女
- でもどうしよう、これじゃとても。なんなのこれ。
- 男
- かくゆう僕も、
- 女
- えっ、肩にきのこ乗せてる。
- 男
- いや、乗せてない、生えてんだ。
- 女
- しいたけ、、?
- 男
- そうだと思う。しいたけだと思う。昨日から生えてんだ。
- 女
- どうして教えてくれなかったの。
- 男
- いえないよ! まさかこんなこと。
- 女
- だよね。
- 男
- 無理だよ。
- 女
- それで、ちょっと変だったんだ。
- 男
- それだけじゃないけど。
- 女
- ごめんね。昨日はピアノの練習忙しくて。
- 男
- 楽譜かわったもんね。
- 女
- 急にね。ちゃんと聞けばよかった、話。今聞くよ。ちゃんと聞く。
- 男
- ・・・あのさ。先輩。
- 女
- うん?
- 男
- えっと。
- 教室に人が入ってくる。
- ふたり
- あっかくれなきゃ。
ひとがたくさん入ってきて、ふたりは机のしたに隠れた。
- 声
- あれー、ピアノはー?えみー。
- 男
- ど、どうする?
- 女
- しー!まさかたけのこ生えてて弾けないなんていえない!隠れて乗り切る!
- 男
- わかった。
- 女
- きみは行っていいよ! 帰宅部でしょ。
- 男
- いかない。ここにいる。
- 女
- そ、そう。
- 男
- ・・・たけのこの匂いする。先輩の体。
- 女
- えっ。くんくん。ほんとだ。わたしもね、さっきから君の体からしいたけの。っていうか、
- くんくん
- ふたり
- たきこみごはん!
- 男
- たきこみごはんだ、ぼくたちのにおい!
- 女
- うん! わたしたち、いいにおい!ってちょっと待っておかしいよ。これすごくおかしい。
おかしいけど、・・・おいしい。
- 男
- おいしい。
- 女
- っていやちょっとまって、まだ何も食べてないけど
- 男
- いやもう鼻の穴で味わってる。
- 女
- それ! わかる! においっておいしいよね。
- 男
- うん、おいしい。先輩っておいしい。
- 女
- き、きみこそおいしい。
- 男
- 肩にしいたけ生えてるけど
- 女
- わたしなんかゆびさきにたけのこよ。へん! でも、おいしい。
- 男
- うん。
- 女
- へんなの。
- 男
- ・・いとおしいってこういうことかな。
- 女
- へ?
- 男
- いや、な、な、な。なんでもない。
- 女
- うん。それで、話って
- 声
- えみーー。
- ふたり
- しー。
- 音楽が始まる。
- 女
- あ、始まった。
- 男
- なんて曲?
- 女
- 有名なやつ。
- 男
- ふうん。
- 女
- それで、なに。話。
- 男
- うん
- 女
- しいたけ生えてること以外の。
- 男
- うん。あのさ。あの。
- 女
- うん。聞くよ。ちゃんと聞く。
- 男
- 部活が終わったら・・
- 女
- 終わったら?
- 男
- 僕と一緒に帰ってくれませんか。
- 女
- それだけ?
- 男
- えっ
- 女
- それだけなの、なんだ! 帰る。一緒に帰るよ。
- 男
- どうも。
- 女
- ねえ。私の話も聞いてよね。
- 男
- 先輩の話?
- 女
- うん。帰り道に言う。ちゃんと言うから、聞いてよね。
- 男
- うん、ちゃんと聞く。
- 間
- 女
- はやく終わらないかな、音楽。・・・
- しみじみと両手をみる。
- 女
- ゆびさきにたけのこ。尖ってて、怪獣みたい。
- 男
- かっこいいよ。先輩は。
- 女
- ふふふ。へんなの。
- おわり