ばあちゃん
きみすけさん、あなたここにお座りなさい。
ぼく
なんだい、ばあちゃん。すわったよ。
ばあちゃん
あなたにひとつお話があります。
ぼく
はいどうぞ、なんでしょう。
ばあちゃん
わたしくし、かれこれ18年、あなたのばあちゃんをしてまいりました
ぼく
そうだね。ばあちゃん。昔と変わらず僕をかわいがってくれている、
感謝しています。ありがとう。
ばあちゃん
どういたしまして。
ふたりおじき。
ぼく
それで話ってなんです。
ばあちゃん
昨日、あなたのおとうさんとも話をしたのだけれど
ぼく
ほう。僕のとうさんと。
ばあちゃん
きみすけさん、あなた明日からわたしのことを、「きみこさん」と呼ぶように。
ぼく
きみこさん?
ばあちゃん
ばあちゃん、ではなく、きみこさん。
ぼく
そのわけは。
ばあちゃん
わけなど(失笑)。わたしの名前が、きみこ、だからです。
ぼく
そういや知りませんでした。ばあちゃんの名前は、きみこですか。
ばあちゃん
ええ。
ぼく
では明日からそのように。
ばあちゃん
それから、きみすけさん。
ぼく
なんでしょう。きみこさん。
ばあちゃん
わたし明日からあなたと同じ大学に通います。
ぼく
へっ
ばあちゃん
同級生としてどうぞよろしく。
ぼく
僕と同じ大学に。
ばあちゃん
はい、合格通知。
紙を出す。
ぼく
学科まで同じじゃないか!(気付く)あれ、きみこさん、あなた白髪を染めましたね。
ばあちゃん
おや、やっと気づきましたか。これで10は若く見えるはず。
ぼく
確かに、若返ってみえる。
ばあちゃん
ふっふっふ。
ぼく
わ、きみこさん! あなた、今日のその服、、、
ばあちゃん
気づきましたか。 新しいワンピース。これでさらに10は若く見えるはず。
ぼく
確かに。それも、似合ってる。
ばあちゃん
ふふふ。(声も若がっていく) それから、ほら。
と、箱を出してくる。
ぼく
なんです、その箱。
ばあちゃん
あけてみて。
あける。
ぼく
靴だ。
ばあちゃん
買いました。
ぼく
このヒール!高すぎやしませんか!
ばあちゃん
7センチあります。
ぼく
危険だ!
ばあちゃん
あら、そんなこと、ないんですよ、
そうだ!せっかくだもの、お散歩にいきましょう!(若返ってる)
ぼく
散歩?
ばあちゃん
春だもの!
ばあちゃん、靴を履いてみせる。
ぼく
ば、ばあちゃん!いや、きみこさん、それは随分高いヒールだよ、気をつけて!
ばあちゃん
大丈夫。ほら、ね!(完全に若い)
軽やかな靴音
ぼく
(見とれて)なんだか、すごく若く見えます。
ばあちゃん
そうでしょう。スキップもできちゃうくらい。
ぼく
おかしいな、なんだか本当に・・・(若く見えている)
ばあちゃん
あ!みて!桜があんなに!きれい。
ぼく
きみこさん。(ばあちゃんはクルクルと若く、輝く春にみとれて気づかない。)
きみこさん!
ばあちゃん
なあに?
ぼく
あ、あの、
ばあちゃん
なあに?
ぼく
入学・おめでとう!おめでとう!
ばあちゃん
まあ!ありがとう。わたしたち、新入生ね。どうぞよろしく!
ぼく
は、はい。
こうして、ぼくとばあちゃんは、新しい人生を始めた。
聞きたいことは山ほどあったけど、大丈夫、ぼくらには、時間がある。
ゆっくり語ろう。
だってほら、ぼくらは学生じゃないか。春!
おしまい。