- 村重
- ・・・田宮、さん?
- 田宮
- 村重君?うわー、久しぶりだね!
- 村重
- 変わんないね!
- 田宮
- え?大学卒業してから、5年経つんだよ?変わらないなんて、ありえないでしょ?
- 村重
- ですよね~。キレイになったね!うわっ、滝川クリステルかと思った!なんちて!
- 田宮
- (ため息)
- 村重
- ・・・俺今、営業やっててさ・・・。
- 田宮
- 変わったね、村重くん。昔はもっと、ナイフみたいだったのに。
- 村重
- 俺、そんなだった?
- 田宮
- さわるもの皆、傷つけてたよ。
- 村重
- マジで?俺・・・、最近自分で自分のことがよくわからなくなってきたんだ。
この社会という荒波にもまれているうちに、自分の姿を見失ったというか・・・。
- 田宮
- あ、ごめん。ツイッターしてた。
- 村重
- 聞いてよ。田宮さん、俺、どんな奴だった?
- 田宮
- ・・・いやなやつだったよ。
- 村重
- えっ。
- 田宮
- 犬に石とか投げてたし。
- 村重
- ウソ!!
- 田宮
- 軽音部に入ってたじゃん、村重くん。
- 村重
- はいはい。
- 田宮
- 初めて彼女ができたときに歌作ったでしょ?
- 村重
- ・・・覚えてない。
- 田宮
- あたしは覚えてるよ。(歌う)♪俺の世界に入ってきたオマエ~
- 村重
- やめて、やめて!!
- 田宮
- それから一年して彼女にふられた村重くんが作った歌はね、(前奏を歌う)
- 村重
- 歌わないで!
- 田宮
- タイトルは、「愛されなかったオマエへ」。おこがましいタイトルだよね。
愛されなかったのは、自分なのに。
- 村重
- ・・・俺、そんな奴だったんだな・・・。
- 田宮
- 同時にナルシストでもあったよ。鏡で自分の姿をしょっちゅう見てたし。
- 村重
- 俺、もう帰りたい・・・。
- 田宮
- ダメだよ!
今日は、長田(おさだ)くんの結婚式のスピーチを考えるために集まってるんだから!
- 村重
- そうだったね。
- 田宮
- でも珍しいよね。私と村重くん、ふたりにスピーチ頼むなんてね。
- 村重
- そうだよね。
- 田宮
- スピーチの冒頭、自己紹介するよね。えっと・・・
「両家のみなさま、本日はおめでとうございます。
私、新郎の友人で、ナルシストの村重と申します。」これでいこっか。
- 村重
- ウソお。
- 田宮
- 村重くんのこと、一発でわかるよね。
- 村重
- でもさ、でもさ。
- 田宮
- あとあたし、長田くんに告白されたことあるんだよね。それをスピーチに盛り込むね。
- 村重
- NG!それNG!
- 田宮
- いやでもね、考えてみて?自分をふった女を、結婚式に招いてスピーチさせる・・・。
きっと長田君は私に勝利宣言したいのよ。
- 村重
- 勝利宣言?
- 田宮
- だから私もその期待に応えようと思うわ。
- 村重
- そして、結婚式当日。
- 結婚式の音楽。
- 村重
- えー、私、ただいまご紹介にあずかりました、新郎の友人で、ナルシストの村重と申します。
- 田宮
- 同じく、田宮と申します。長田君、今日は、敗北宣言をしに来ました。
五年前、あなたを振ってごめんなさい。あれ以来、ろくな男に言い寄られず、
今も働かない男を養っています。こんなことなら長田くんと付き合っていればよかった。
そうすれば、今長田君の隣に座っていたのは私だったのに。
- 村重
- 田宮さん、やっぱりやめよう。
- 田宮
- どうして?
- 村重
- 長田の顔、般若みたいになってるよ!!
- 終わり。