- 男
- 僕、今のままじゃ駄目なのかなって、思う夜が、あるんだ……。
- 女
- 君、がんばらなくていいんだよ。
- 男
- 毎日、涙が出そうになるんだ。
- 女
- がんばらなくていいんだよ。
- 男
- 沢山の人に馬鹿にされてるような気がするんだ。
- 女
- がんばらなくていいんだよ。
- 男
- 辛いんだよ……。
- 女
- お疲れ様。もう、がんばらなくていいんだよ。
- 男
- うん……。ありがとう……。でも、僕は、四十三歳だ……。
それに、この歳になるまで働いたこともない……。
ずっと、お母さんに、頑張りなさい、って言われ続けるんだ……。
流石に、頑張ったほうが良いのかな……。
- 女
- がんばらなくていいんだよ。君は君のままで居ればいい。
お母さんだって、きっとそう言ってくれる日が来るよ。
君は、君に出来ることを精一杯、やっているんだから。
- 男
- あ、ぼくね、今日、パチンコに行ってきたよ。凄い?
- 女
- すごいすごい。よくがんばったね。
- 男
- でも、おうちに帰ったら、
お母さんの財布から黙ってお金を借りてたのがばれちゃって、
お父さんに、叩かれちゃった……。
- 女
- それは、とっても……辛かったね……。もう、がんばらなくていいんだよ。
- 男
- お父さんは、「俺ももう七十六やぞ、何が悲しくて無職の四十三の息子を殴らなあかんのや」って、泣きながら殴ってきたんだ。とっても、怖かったんだよ。
僕、怖くなって、大きな声で泣いちゃった……。
- 女
- それは、とっても辛かったね。
- 男
- 他にも頑張ってることあるよ!
- 女
- なになに?
- 男
- 僕ね、毎日、十五時間、寝てるんだ。
- 女
- がんばりやさんだ。とっても、がんばりやさんだね。
- 男
- お腹が空いたら、お母さんを呼ぶよ。コンビニにお菓子、買いに行かせるんだよ。
- 女
- お母さんを呼べるの? 凄くえらいね。
- 男
- 僕ね、一回だけ、アルバイトの面接に行った事があるんだ。十年くらい前。
- 女
- それは、えらいね。良く、頑張ったね!
- 男
- お母さんにお金貸してもらって、面接行ったら風俗一回行って良いって言うから、
僕、頑張ったんだよ。
- 女
- うんうん。それからそれから?
- 男
- 頑張って、履歴書を買ってきたんだ。職歴のところに、ちゃんと、小卒って書いて。
- 女
- えらいえらい。それでどうしたの?
- 男
- え?
- 女
- え?
- 男
- おわりだよ。
- 間。
- 女
- えらいえらい。本当に、良く履歴書を買ってこれたね。それに、小卒って、よくかけた。でも、もう、がんばらなくていいんだよ。君は、よく頑張った。
本当に、よく、頑張ったね。私は、君のことを認める。
世界中のだれもが、君のことを認めなくても、私は、君のことを、認めるよ。
- 男
- 本当……?
- 女
- 本当。
- 男
- じゃあ、ゲーム、してていいかな……。
- 女
- ゲーム、しておいで。
- 男
- わぁ……。今まで、頑張ってきてよかった。
- 女
- 君は、本当に、よくがんばった。
- 男
- 人には、出来ることと出来ないことがある。
それを認めあってこそ、真の平和が生まれるんだね。
- おわり。